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» 2016年7月26日 更新

事務所を出て駅へ向かうと、そこは世界が変わっていた。そんな体験をかつて経験したことがあっただろうか。若い男女から、サラリーマン風のおじさんまで、スマホを持って動いたり立ち止まったり、これまでの駅前の風景とは全く違う光景が広がっているのだ。

このゲームには、人がなぜ動くのか。その原理が詰め込まれている。実際にダウンロードし、経験してみて実感した。もちろん、これまでも「位置ゲー」と呼ばれるGPSを利用したゲームはあったかもしれない。ポケモンGO開発元のNiantic社が開発したイングレスも一定の人気を得たが、普段ゲームをしない人までに広がるまでにはならなかった。なぜポケモンGOだけがいわゆる「キャズム※」を超えることができたのか。

※キャズム
初期のユーザー(アーリーアダプター)である全体の16%から、ユーザーがそれ以上広がるには大きな溝(キャズム)があるという説。マーケティング・コンサルタントのジェフリー・A・ムーア(Geoffrey A. Moore)の著書『Crossing the chasm』(1991年)に登場するキーワードで、ハイテク市場におけるマーケティング理論である「キャズム理論」は大いに注目を集めた。

1.IP(知的財産)の威力

言わずと知れたポケモンは20年間、人気キャラクターであり続け、ゲームをしない人でもそのキャラクター名を知っているほどの有名キャラクターである。やはり、この「既に誰もが知っている」という力は相当に大きな力であり、企業が芸能人を使うのも、芸能人そのものが出演料が安くてもテレビに露出し続けるのも、「知っている」という価値がどれほど大きいかを表している。どれだけの人が、顔と名前を一致させることができるかという要素は、大きな差を生む要素だ。そして、ポケモンの「ポケモンを集める」というストーリーもほとんどの人が知っている。その物語や世界観が多くの人に知られていることが重要なポイントとなったことは想像に難くない。

2.分かりやすさ

歩いているとポケモンが出現してそれを捕まえていく。このシンプルさが人々に行動を起こさせる原動力となったのは言うまでもない。分かりやすさというのはいつの時代でも人々に行動をさせる大きな要素である。だが、どうしても仕掛ける側は、他と差別化したい、もっといろいろ盛り込みたいとなぜか複雑にしてしまう。これが行動を阻害する要因になってしまうのだ。ポケモンGOにも対戦であったり、進化やインキュベーションといった複雑な要素がもちろんある。 しかし、導入時にそこを意識させず、シンプルにポケモンを捕まえるという経験をさせ、レベルが上がると対戦ができるという仕様にしていることがこのゲームの秀逸なところになるだろう。 入口を分かりやすくし、徐々に経験を積んでいくことで複雑なことができるようになる。このステップはマーケティングにおいても大いに活用できる考え方である。

3.情報を制限する

人には、足りないものを埋めようとしたいと思う心理が働く。ツァイガルニク効果とは、未完了のものを埋めたいと思う心理の事だが、このゲームにはまさにこの未完了のものがたくさんあり、しかもそれは自分がうごかなければ手に入らないのだ。 ポケモンGOの画面上の地図は自分がいる範囲数キロの状況しか分からない。しかし世界は広い。もう少し先にもっといいものがあるかもしれない。でもそれは行ってみなければ分からない。そういう不安定な心理状況にユーザーを追い込んでしまう。 結果、人々は家を出て歩き出すのだ。

4.収集欲

コレクションしたいという欲求はかなり根源的な人間の欲求で、それには多くの心理的な要素が詰まっている。一つ、二つと集めていくうちに、これを全部揃えたいという気持ちになるのは、例えばコンビニでのキャンペーンなどでも使われるし、スタンプラリーのような企画もやはり「全部そろえたい」という気持ちを利用したキャンペーンの一つだ。 ポケモンGOでは、ダウンロードした最初に数匹のポケモンがいきなり登場して、すぐに捕まえることができる。そしてそれが「図鑑に登録された」と表示される。そしてその図鑑には、まだ捕まえていないポケモンのシルエットがズラッと並んでいるのだ。「集めたい・・・」そういう心理になるのは当然の成り行きだ。しかもそれはお金をかけなくても実行することが出来る。ならばそれを妨げる要素は無い。ただ家を出て歩き出すだけなのだから。

5.テレビ報道

米国で先行配信されたということもあり、配信前からテレビ等で大きな話題となった。インターネットが今のように身近になった現在でもテレビは圧倒的な力を持つ。それは世の中には情報を積極的に取りに行き取捨選択・判断して利用しようという層と、完全に受け身で情報を受け取る層が厳然として存在するからだ。これがキャズムの原因でもあるのだが、米国での熱狂がテレビ放送されることによって、積極的に情報を取りにいかなかった層もポケモンGOの配信の情報を知ることができるようになり、ここで、一気にユーザー数が増えたともいえる。今、テレビの出稿のNo.1はスマホゲームだ。スマホゲームのユーザーにリーチするのには、テレビがまだ最適であるということである。だから、この一連のNHKも含めたポケモンGOのテレビ報道を広告換算すればどれほどの効果があったのか。結果として広告費をほとんどかけずにこれだけのユーザーを獲得することに成功しているのだから驚愕である。

6.口コミ

新しいものをいち早く導入し、それを知っているということはとても優越感に浸れる気持ちいいものだ。ポケモンGOの最新情報を知っている人という地位を誰もが欲しがるだろう。だからこそ、最初にダウンロードした人は、SNSや直接の口コミでどんどんその経験を拡散することになる。そうすることで等比級数的に情報が拡散されていく。 またテレビ等で話題となったことによって、ポケモンGOが「共通の話題」化したことも見逃せない。プロ野球の試合結果などスポーツが共通の話題としてコミュニケーションのきっかけとなるように、「ポケモンGOもうやった?」という話題がコミュニケーションを促進させる効果を持ったということが、大きな要素である。

7.ミッションとビジョン

故岩田社長の遺志を引き継いで配信開始までたどり着いた、世界中の人がゲームを通じてもっと広い世界へ飛び出してほしいという願い。開発者であるNiantic社の社長の思い。そういった開発した人の思いや使命感というのは、成功するためには不可欠な要素だ。大多数のユーザーはその想いを知らないかもしれないが、普段から情報収集をしている人にとっては、この開発陣が成し遂げようとしているミッションに共感をしたという面が大きいのかもしれない。

現実にこれだけ多くの人が、自発的に行動をするという偉業を成し遂げたポケモンGOに私たちは多くのことを学ばなければならない。マーケターとして人が動くというのはどういうことか、人が集まるというのはどういうことか。口コミを広げるというのはどういうことか。 ポケモンが有名だから流行ったという一言では片づけられない様々な要素が含まれていることを理解しなくてはならないのではないだろうか。

さて、雨も上がったのでポケモンを探しに出かけるとしよう。

それでは!

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プロフィール

石田陽之

石田陽之

株式会社サイバーブリッジ代表取締役、中小企業のSNS活用&リスク管理、海外企業の日本マーケティングコンサルタント。

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