エムスリー研究最終回では医療系人材サービスを使うユーザ像を定義したうえで、エムスリーキャリアと他の医療系人材サービスのユーザビリティ評価比較を行います。実際に医師の方にサイトを使ってもらい、考えていることや思っていることを話してもらったうえでユーザニーズを定義し、そのニーズ毎にユーザビリティを評価し比較をしました。
医師という職業はあかひげや仁などのマンガや映画に代表されるようにある種尊敬を受け特別視される類のものですが、今回のテストでそういったものがただの先入観だったことがわかりました。ユーザビリティテストの面白いところはこういった制作者や運営者側の思い込みが明らかになる点です。
目的は『医療系人材ウェブサービスの最良のユーザビリティを考察すること』です。クックパッドユーザビリティ研究と同様にユーザ定義⇒ユーザビリティ評価という流れで進めます。
章立てとしては
・医療系人材サービスのユーザ定義
・エムスリーユーザビリティ評価比較
・まとめ
という形で参ります。
それでは早速見て行きましょう!
■医療系人材サービスを使うユーザ像
何人かの医師にヒアリングをしたところ、主にキャリアップ系や年収アップ系のポジティブなものと、人間関係などの問題で転職を希望するネガティブなものがありました。
そしてもうひとつあったのは医師のアルバイトニーズです。専門医を取得するためには大学病院で数年間勤務医になる必要があります。大学病院では週の休みが1日ということも多く、収入も開業医などと比べると低いことが特徴です。そのため休みの日にアルバイトを入れるニーズがかなりあります。
今回はアルバイトの求人案件を探すサンボさんのユーザニーズを定義しユーザビリティ評価を行います。行動をフェーズをまとめるとこのようになりました。
フェーズ毎にユーザニーズの定義とユーザビリティの評価を行なっていきましょう。
■エムスリーと他サイトのユーザビリティを比較
①認知・流入フェーズ
☆ユーザ定義
見られた行動は大きく2つにわけることができました。ひとつは検索に「MRT」というサイト名を入力して調べること。もうひとつは
「医師 非常勤」というキーワードを入力して、タイトルタグやディスクリプションに「スポット」という記載があるものをクリックするという行動です。
MRTというサービスは元々東京大学医学部出身の冨田兵衛さんが始めたサービスです。医療や教育などの分野は組織にマーケ担当者がいるということは少なく、だいたい院長や学長が権限を持って切り盛りをしていることが多いです。そのため別業界から参入をしても参入障壁がネックになり営業がうまくいかずビジネスもうまくいかないということがあります。
元々医師であればその点をクリアできることは想像できるでしょう。営業では信頼関係をいかに構築するのかということが重要課題ですが、医師であるという共通点は信頼関係を築く上で非常に大きな要素です。
このMRTが人気な理由は「医師にとっての実入りが良い」からです。MRTは他の人材サービスよりも、病院からもらう手数料を抑えているため医師にバックされる金額も多いことが特徴です。そのため多くの医師がMRTを使っているという現状があります。
今回は仮に「MRTに思うような案件が無い際に、インターネットの検索を使って行動をしてみてください」という案内をしたところ
「医師 非常勤」というキーワードでサイトを調べ、すぐに働けるという記載があるものをクリックしました。ここから導けるユーザニーズは「スポットで働ける案件を探したい」になります。
これをユーザ定義としたうえで、サイトの目的が達成されているかどうかを比較します。
☆ユーザビリティ評価比較
結論からいうとエムスリーキャリアのサイトはクリックされませんでした。ユーザはDtoDコンシェルジュというサイトのタイトルに記載されていた「スポット非常勤」という情報を確認をしてクリックしたためです。
タイトルやディスクリプションは検索エンジンには最適化されているが、ユーザに最適化されていないサイトが多いです。これは自分達のサイトをユーザが使っていることを見たことが無いため起こる問題です。ユーザビリティテストの価値はユーザがどういった情報を探し、何にニーズを感じているのかを体感できることです。それによってユーザがどういった文言をクリックするのかがわかるようになります。
②情報収集フェーズ
☆ユーザ定義
情報収集フェーズで見られた特徴的な行動としては
・救急指定なしの案件を選択
・条件の絞り込みでDNRがあるものを探す(Do Not Resuscitate=心肺蘇生を行わない)
・他の勤務医のコメントをチェック
・外来の件数を確認
などです。根本にあるニーズは全て「めんどくさいことは避けてなるべく早く楽して稼ぎたい」というものです。救急指定がある病院は急な患者さんの対応が必要になるため、その分手間がかかります。療養型の病院は基本救急指定がないので、療養型を選択するという行動も見られました。また他の勤務医のコメントや外来の件数も、勤務状況が楽なのかどうかを判断するために見ていました。
☆ユーザビリティ評価
先ほどの認知フェーズでクリックをしたDtoDコンシェルジュは案件の絞り込み画面で救急指定を選択できるようになっています。一方エムスリーキャリアもフリーワードの入力ボックスに「救急指定なし」などのワードを入れることはできますが、そもそも気づかれないという行動が見られました。
「サンボさん」という医師にとってのユーザビリティはDtoDコンシェルジュのほうがよくできています。
③選定フェーズ
ユーザに普段どういった閲覧環境でインターネットをするのかという質問をしたところ「スマートフォンかiPadなどのタブレット」という答えが帰って来ました。先日私は休みをとってインドに旅行に行きましたが、タブレットが3千円という価格で販売をされており誰もがまずPCよりもタブレットを選ぶという流れになっていました。
様々なニュースでも取り上げられているように今後PCよりもスマフォやタブレットの利用者数が増えることが予想されます。その際にネックになってくるのが入力フォームの問題です。
PCと比べるとスマフォやタブレットは入力しづらいのが現状です。そのため多くの情報の記入を求めるフォームは避けられる傾向が強くなります。エムスリーキャリアのサイトは登録をしなくても、
・患者の数
・前の医師のコメント
・病床の数
・外来件数
などを確認できるようになっており、それらをみた上で登録する行動が確認できました。一方DtoDコンシェルジュは登録しないとこのユーザが求めているような詳細な情報は確認できなかったので離脱をしてしまったのです。
☆ユーザビリティ評価
選定フェーズの評価はエムスリーキャリアが勝っています。
またこのフェーズで見られたユーザニーズは医療系人材に限ったことではなく、ハイクラス人材サービスのユーザビリティテストなどでも同じ傾向が見られました。クローラーで情報を抜かれるなどのビジネス上のリスクも当然ありますが、コンバージョンアップを最優先にすると「登録しなくても多くの情報を見れる状態にする」ことでパフォーマンスは大きく上がるでしょう。
■エムスリーユーザビリティ研究まとめ
週末バイトをしたいサンボさんというユーザに対しての総合評価は競合であるDtoDコンシェルジュのほうが高いです。
ただし多くの医師の行動は同じ案件でも実入りが多いMRTを使うというものなので、非常勤の医療系人材ビジネスはMRTがビジネスモデル勝ちしてるといえます。また非常勤ではなく常勤の場合で比較した際はまた異なる結果になるでしょう。それでも上記に挙げたユーザニーズで共通したものはいくつも出て来ました。
ユーザビリティは最適解がユーザによって異なるという理解が重要です。これを読んでいる方でまだテストをやったことが無いという方は、友人や知人で構わないのでまず一度試しにやってみるというスタンスをオススメします。
エムスリー研究はこれで最後です。またこの場所でお会いしましょう!