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» 2014年1月14日 更新

ちびクロの細かすぎて伝わらないネットサービスの話 新日本プロレスの売上を11億⇒25億にする社長の発言からわかるネットサービスが廃れる理由


戦後まだ娯楽もあまりなかった時代に、テレビにおける最も強いコンテンツはプロレスを中心とした格闘技でした。

放送局が2つしかなかったということもありますが、1948年に放映された力道山の試合の視聴率は100%と今では考えられない人気があったのです。

その後プロレスは昭和後半まで強いコンテンツ力を保っていましたが団体の内ゲバによって徐々に衰退することになります。そしてその格闘技ブームに再び火をつけたのが総合格闘技と呼ばれる、よりガチンコ性を追求したスポーツタイプの興行でした。

1997年からスタートしたPRIDEを中心に総合格闘技は大きな社会現象になりました。10年ほど前に大晦日に主要キー局各社が格闘技番組を企画したのを覚えている人も多いでしょう。

なぜPRIDEがそこまでの人気を集めたのかは様々な要因が考えられますが、プロデューサーだった佐藤大輔さんが

『マニアックでとっつきにくい格闘技を渋谷の女子高生でも楽しめるように工夫して伝える』

と語っていたように、格闘技に詳しくない新規顧客であるライトユーザに対しての演出方法や訴求が優れていたことがひとつの要因だったと考えています。

PRIDEの消滅とともに格闘技人気も再び下火になり、大晦日に毎年行われていた総合格闘技イベントもついに放映されなくなってしまいました。またPRIDEは元々新日本プロレスという団体が源流になっていますが、その新日本プロレスも格闘技ブームの下火とともに10億を超える債権を抱えるようになり2012年ブシロードというカードゲームビジネスが強い事業会社に買収されることになりました。


■新日本プロレスの復興と2ちゃんねるの共通点

そしてその新日本プロレスの売上がここ2年間で急増していますが、新日本プロレスを再建させているブシロード代表の木谷さんのインタビューが興味深いです。

コアなユーザーがライトなユーザーを拒絶していたがために、プロレスが衰退していった面もありました。僕は"すべてのジャンルはマニアが潰す"と思っていますから。ただ、今のプロレスに関しては、そんな排他的なコアユーザーは少なくて、みんなでプロレスを盛り上げたいという気持ちが強い。
http://www.news-postseven.com/archives/20140102_234363.html

そしてこの話をしているのは木谷さんだけではありません。日本で最も成功した掲示板サービス2ちゃんねるもそうです。

nanapiというハウツーサービスを展開している会社の代表古川健介さんがコミュニティサービスがつまらなくなってしまう理由をQixilというQ&Aサービス内でこのように話しています。

コミュニティをつまらなくしてしまう、一番の原因が、貢献度の高い古参ユーザーです。貢献度が高い人かつ、サイトを愛しているような人が、一番邪魔になるというのはよくあることです。~中略~
たとえば、キクシルがこのまま1年くらい経つと、新しく入ってきた人が過去と同じ質問をすると思うのですよね。「あなたが会社を立ち上げた理由を教えてください」みたいな。これに対して、昔から長くいる人は「既出だよ」と思ったりして、そういうコメントを書いちゃったりします。そこまでいかなくても、昔に答えたものなので、答えなかったりします。

すると、質問をしてもいい回答が集まらないというので、質問した人はつまらなくなっちゃいますよね。しかも「過去ログ読め」とか言われたら超いやじゃないですか。知るかよと。
さらに、古参の人は、新鮮な質問がいいわけなので、見たことないような質問にばっかり答えるようになります。となると、話題がどんどんマニアックになるので、参考になる新鮮な情報があまり見れなくなるというのがあります。
そして最悪なのが慣れ合いですね。知り合い同士で、慣れ合って、雑談をしはじめたりとか、文脈がないとわからないような投稿をしたりしちゃうことによって、どんどん新しい人が入りづらくなります。超仲いい人たちによる、内輪受けとかのネタが多いサークルにたった1人で入ることを想像してもらえると、いかに入りづらいかがわかると思います。
https://qixil.jp/q/246

こういった背景から2chは古参の居心地を悪くすることを基本の施策として採り入れていたそうです。

2chなどをはじめとした、長く続くコミュニティは、いかに古参を追い出すかというのは基本の施策としてやっています。
ひろゆきさんは、元々、都市設計の理論などをある程度意識して作っていたりしました。要は、新陳代謝がないと、どんどん平均年齢があがっていき、活力のない都市になってしまったりする、というのと同じです。
https://qixil.jp/q/246

 このあたりの話はウェブサイトの改善も同じだと感じます。いくつか事例を紹介しましょう。


■この話はウェブサイトの改善に似ている

様々なウェブやスマートフォンサイトのユーザ行動を観察していると、こういった話に似ている点があるなと感じます。

ユーザにサービスを利用してもらうための前提として、ユーザの知りたいこと=関心を特定しそれらに応えることが必要ですがそれがうまくいっていないと、新しいユーザを獲得するのは難しくなります。

例えば先日放射線測定器を販売するページを見たユーザに対してインタビューしたところ、ユーザから挙がった意見に『何をいってるかわからないため購入しようと思わない』というものがありました。

その商品はシンチレーション式測定という、これまでの測定方法よりも詳細に放射線を検出できる機能が売りで、その言葉は業界関係者にとっては当たり前の言葉でした。

そのためシンチレーションが何なのかを説明するという発想が無かったため、こういった問題が起きました。

また先日賃貸オフィスを紹介するサービスサイトについて、オフィスを探す経営者に使ってもらいインタビューしたところ

『坪という言葉を見てもどれくらいの大きさなのかイメージできない』

『坪から平米に変換するのが手間』

というコメントが確認できました。賃貸オフィスを探すユーザの関心は広さはもちろんですが、何人で入居できるかどうかです。

こういった問題はSOHOオフィスナビのように、人数と坪数を整理して提案することでこういったユーザの疑問や不満は解消ができます。

soho.jpg

ただしこういった施策で大事なことは改善内容を実行した背景を理解すること、言い換えるとユーザ関心を特定しているかどうかです。

ユーザが何を考えているかがわかれば、こういった施策を更に改善できますし、別の施策にも転用ができるためです。


■ちきりんの日記の育て方が面白い

Chikirinという月間200万PVを稼ぐ人気ブロガーをご存知でしょうか。kindleで出版された「Chikirinの日記」の育て方という本では『「ネットの中の人」にはならない』という章があります。自らのブログの運用ルールの一つにネット用語を注釈なしで使わないことを挙げており興味深いです。

一日の大半を職場ですごし、個人用途でネットを見るのは、通勤時間や昼休みと帰宅後に一時間ほど、といった人たちは、ネット内だけで使われる言葉や、その流行りを知りません。それなのに「Chikirinの日記」上にネット用語が溢れていたら、それらの人たちに「このブログは自分向きのサイトではない」と判断されてしまいます。~中略~
今後、新たに私のブログの読者になってくれる人は、今でも新聞や雑誌、テレビなど既存のメディアに(ネットメディアよりも)慣れている人たちです。そういった人が関心を持てるトピックについて、違和感のない文章を書くこと。換言すれば、そういった人たちに「疎外感を与えないこと」が、新規のブログ読者獲得のためには重要なのです。
ネットに詳しい人たちの多くは、既に私のブログを認知しています。このグループの中には、「Cikirinなんて知らない」という人は少なく、「知ってるけど、おもしろくないから読まない」という人しか残っていません。そんなグループから多数の新規読者が獲得できるとは思えないのです。

これも同じ話ですね。ちなみにこのちきりんさんの本は非常に面白いです。


■まとめ

冒頭で紹介したブシロード木谷さんのコメントの「すべてのジャンルはマニアが潰す」という意味は

サービスが盛り上がる

熱狂的なファンが増える

サービス提供側の目線がマニアになり、サービスや訴求がマニア向けになる

新規ユーザが敷居の高さを感じる

古参メンバーが増えサービスが過疎る

という話でマニアが悪いということではなく、サービス提供側が新規顧客の関心を特定できなくなることが問題の本質だと思います。この話は格闘ゲームのように難易度が高くなってしまったゲームよりもwillのような直感的なゲームのほうが売れたみたいな話のように枚挙にいとまがないです。

色々書きましたが、実際問題ライトユーザの立場になって考えよう!というのは実際問題結構難しいなと感じています。誰もがイタコのようになりきって考えられるものでもないですし、私自身高校時代の部活でよく先輩に注意されていたのは

『指示出しの声が1人よがり』

ということでした。このあたりの問題はユーザビリティテストで解決できます。想定される新規ユーザの行動を地道に観察&インタビューしていくことで新規ユーザ経験値をためていくことで上記のようなギャップは解消されるでしょう。または2chなどのユーザ投稿サービスを通して生のユーザの声に耳を傾けることです。

それではまたこの場所でお会いしましょう!


【訂正とお詫び】

こちらの記事のテレビ放送の開始日と視聴率について、複数の方よりご指摘がありました。

文中誤って、『1948年に放映された力道山の試合の視聴率は100%』と表記しましたが、正しくは1949年に放送された試合です。

また当時は視聴率を取得していないため、100%という表記は誤解を招くものでした。意図としては2つの放送局が同じ番組を放送したという意味になります。

読者の皆様には深くお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした。

※再度訂正

放送年度は1949年ではなく1954年になります。


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プロフィール

黒須敏行

黒須敏行

早稲田大学在籍時に株式会社アルコにアルバイトとして参加し入社。現在はコンサルタントとしてベネッセやラクスルなどが運営する大規模サイトを中心にウェブマーケティング改善のプランニング及びコンサルティング活動を行なっている。

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