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» 2013年6月19日 更新

データとデザイン研究室 企業と顧客のツナガリ(1)顧客ロイヤリティを測る指標NPS

最近、新聞社・雑誌社系のメディアやソーシャルメディアマーケティング関連の記事などで時々取り上げられているNPSという指標。

顧客満足度調査を担当するマーケターや調査会社の方は、耳にしたことのある方が多いかもしれません。
NPSで検索すると、某カメラメーカーのサイトや他の会社のホームページも出てきますが、「Net Promoter Score」の略で、CS(Customer Satisfaction)のように顧客ロイヤリティを測る指標の一つです。

(なお、Net Promoter Score、及びNPSは、ベイン・アンド・カンパニー、フレデリック・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの商標です。この3者がスコアの計算方法や活用の仕方などを考案しました。)

NPSは、CSでは測りきれない顧客ロイヤリティを測るスコアとして開発され、2003年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌で発表されて以降、米国企業で導入が進みました。
最近編み出されたものではないのです。

それが最近注目されている背景には、

  • 消費者によるソーシャルメディアやクチコミサイトにおける情報発信や情報収集が浸透してきたこと
  • 企業の商品/サービス、および対応に関する評判の伝播(時にアンコントローラブルな状態に陥る)が重要視されるようになったこと

が関係していると考えています。
もちろん、導入した米国企業におけるベストプラクティスが確立されてきたこともあると思います。

企業のマーケティング活動は、企業からの一方的なメッセージ発信ではなく、「顧客との対話の中からいかに企業や商品/サービスへの共感を呼び、ロイヤリティの高いファンを醸成していくか」という方向に、シフトしつつあると言われて久しいです。
ただ、そのファン度合いを測る指標として、何をどう計測すれば良いのかということについては、まだ試行錯誤の段階にあると私は考えています。

今回は、ロイヤリティやファン度合いを測る一つの手法としてNPSを紹介し、注目の背景として 企業や消費者の意識・行動を示す海外の調査データを 2回にわたってご紹介します。


(1)NPSとは

Net Promoter ScoreのNetはインターネットやネットワークのことではなく、「正味」を意味するNetです。
それはこの指標の計算方法に由来があります。簡単にNPSのスコア計算方法を説明します。

自社の顧客に、「この企業(商品/サービス/ブランド)を、親しい人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?(0~10までの点数をつける形式)」という究極の質問とその理由を聞き、回答結果から顧客を「推奨者(Promoter)」「中立者(Passive)」「批判者(Detractor)」の3タイプに分類します。
聞くタイミングとしては、顧客が購買や申し込みを終えた後にアンケート等で実施するケースが多いようです。
また、企業自身が直接顧客に聞く場合もあれば、第三者(調査会社など)を介して実施する場合もあります。

顧客の分け方は下記の通りです。

nps1.jpg

回答者のうち、「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引いた数値が、NPSのスコアとなります。
このスコアの計算方法が、どのような人に説明しても単純明快なことと、NPSのスコアが満足度調査の数値よりも企業の業績指標(成長率や収益関連指標)と相関が強いことが研究で判ったことから、数千社以上の米国企業で導入が進んだそうです。
例えば、アップルやアメリカン・エキスプレス、イーベイ、フェイスブックなどが挙げられます。

※詳しくはベイン&カンパニーの米国サイトに一覧があります。

最近の調査では、NPSの質問で9や10をつける「推奨者」と呼ばれる顧客は、「購入/利用年数」「購入額/利用額」が「中立者」や「批判者」よりも多い傾向にあり、新しい顧客を呼ぶ可能性が高いことから、業績先行指標として活用できるとされています。


(2)NPSの仕組み化、「自分たち事」化

NPSは近年、スコアの話にとどまらず、「Net Promoter System」や「Net Promoter Spirit」とも言われています。
NPSのスコアを社内で啓蒙し、スコアをアップさせるために社員各自が能動的に行動に転化できるよう、トップダウンでアクションを推進していく「仕組み化」が重要となっているのです。

例えば、NPSを軸に、「推奨者」がなぜ薦めたいと思ったかの理由、「批判者」がなぜ薦めたくないと思ったかの理由に耳を傾け、顧客とのコンタクトポイントの立場にある者だけではなく、商品/サービスの企画・開発・改善の全てのサイクルに生かす、といったアクションの実行です。

顧客の声は、顧客接点の最前線であるコールセンターや問い合わせフォームで拾ってきましたが、最近ではソーシャルメディア上にも広がり、マルチチャネル化しています。
ソーシャルメディア上の顧客の声は、自発的なコメントであり本音が出やすく、また企業が想定していない形で急速に伝播していくこともあります。
声に対して、公式アカウントから応対することはもちろん、企業全体としての取り組み姿勢を見せるためには、どの立場の社員も声に耳を傾けて自分にできる行動をとらなければ、間に合いません。
そのようなカルチャーを醸成し、自分の日々の改善アクションが会社の結果につながったのか、フィードバックとして受け取れる定量的な指標として、米国企業ではNPSが活用されているのだと考えられます。

このことから私は、NPSは 顧客・企業における 商品/サービス/ブランドを取り巻く世界の「自分たち事化」と捉えて良いのではないかと考えています。

「自分たち事」ということについて、まず、顧客自身の立場から考えてみます。
マーケティングリサーチに従事していた者として、回答する顧客の立場になって考えてみると、「満足しているか」と聞かれれば自分の意識の問題として回答するだろうと思います。
言わば「自分事」の範疇で、他人がどう思おうがそれは「他人事」です。

しかし「他人に薦めるか」と聞かれると、薦める対象とする友人・知人の顔を思い浮かべ、薦めた後の責任意識が芽生えるだろうと思います。そうすると、自分だけではない他人を、その商品やサービスの世界に巻き込む「自分たちのコト(自分たち事)」となるのです。

企業の社員の立場で考えてみると、自分自身が営業の立場であれば営業的な成果は「自分事」ですが、顧客サポートや仕様に関する業務、会社全体のイメージなどについては「他人事」と考えてしまうことが往々にして発生します。
しかし、自分の営業行為や会社自体の姿勢、仕様について顧客が不愉快なことを感じ、その意見を他人に伝えた場合、会社は将来の見込み顧客を失ってしまいます。
逆に、良い感情を抱いてもらえた場合には、その評判は広まっていき、新たな顧客が増える可能性が出てきます。

良きにつけ悪しきにつけ、自分やチームの行動が会社の業績につながっていることが数値として見ることができれば、社員やスタッフの行動は変革できるのではないか、というのがNPSの考え方だと思います。
そのため、「推奨者」を増やし、「批判者」を減らすための行動を、自分だけの問題ではなく全体の問題としてとらえ、「自分たちのコト(自分たち事)」として考えたチームプレーにつながるのではないかと思うのです。

補足:「自分たち事(じぶんたちごと)」という言葉自体は聞きなれないかもしれませんが、情報デザインやコミュニティデザインの現場で使われている言葉です。「他人ごと」ではなく、「自分ごと」だけでもなく、「自分と他者を巻き込んで進めていくアクションや場」を現す言葉として使われています。


(3)企業のソーシャルメディアマーケティングにおけるNPS

NPSは、企業の業績指標との相関が強く出る傾向にあると書きましたが、ソーシャルメディアマーケティングの効果測定としても活用が始まっています。

The CMO Survey の調査によると、米国企業におけるソーシャルメディアマーケティングの効果測定指標として、2010年の調査では上位に挙げられていた「PV等のアクセスログの数値」や「売上・利益等の業績指標」が、2013年の調査では減少しています。
その代わりに増加・上位にランクインした指標は、「(ソーシャルメディア上における)公式アカウントのフォロワー・友達数」「Web上でのクチコミ(言及数)」「NPS」「テキスト分析結果」となっています。

The CMO Survey の分析レポートでは、効果測定の指標は「財務指標」から「紹介・推奨にかかわる指標」にシフトしつつあると書かれています。


nps2.jpg


グラフを見てみると、中には微増・微減で誤差の範囲に収まりそうな指標もあるのですが、いわゆるPV数等の集客指標、コンバージョン率や売上などの業績指標は、割合が減少するか、上位5位からランク外に下がっています。
一方で、ソーシャルメディア上での企業と顧客のツナガリ指標である「公式アカウントのフォロー・友達数」は4位から2位に上がり、「Web上でのクチコミ(言及数)」は7位から5位に上昇しています。
「NPS」は、全体に占める割合はまだ少ないものの、2010年よりも2.3ポイント上昇し、売上や利益などの業績指標を僅かながら上回っています。同等レベルの位置に上がったと考えても良いかもしれません。

ソーシャルメディアマーケティングに際し、いかにロイヤリティの高いファンを増やすかを考えた時、「企業と消費者のツナガリ」や「自社について何が言われているか(言及内容)」をあらわす指標の優先度が高まり、それに引っ張られる形で、自社の推奨意向を見る「NPS」の重要性も高まったのかもしれません。


次回(2)では企業のソーシャルメディア活用スタンスと、消費者の意識のギャップが垣間見える調査データをご紹介したいと思います。



■参考文献
NPS:
『ネット・プロモーター経営 - 顧客ロイヤルティ指標NPSで「利益ある成長」を実現する』 
著者:フレッド・ライクヘルド、ロブ・マーキー

The CMO Survey.org:
Fortune1000ランクイン企業、ForbesTop200ランクイン企業、AMA(American Marketing Association)、Duke University等に属するマーケティング担当役員4963人に対するアンケート調査。468人が回答。

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プロフィール

後藤真理絵

後藤真理絵

大学時代はエスノグラフィからのモノ作り研究。卒業後は某広告代理店系の制作会社を経て、通信キャリアでマーケティングリサーチ業務および、データを活用した新規事業企画に携わる。現在は、ヤフー株式会社にてアドテク周辺のデータコンサルとして、DSPやDMPのデータ活用支援に従事。

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