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» 2015年1月29日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(序論)

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私的公開日誌@ウェブ暦150129.01

昨日(28日)開催された「アンバサダーサミット2015」に参加してきた。このサミットは、2年前(13年)に開始したそうだが、私は初めての参加となった。今回、ありがたくもブロガー枠でのご招待に与った。

すでに、日本でもソーシャルメディアという言葉が普及してから5年ほどたった。
テクノロジーの進展により変化が早くそして激しい現在、マーケティングコミュニケーションもこうした大きな潮流に飲み込まれている。

私自身、20世紀は広告代理店の傭兵マーケッター、21世紀はベンチャーやスタートアップでマーケティング責任者を担当してきたので、この間の"マーケティングにけるコペルニクス的大転換"を肌身に染みつくほど実感してきた。
今日ほど、日本においてもマーケティングコミュニケーションが、これほど重要かつ必要だと認識されている状況はいまだかつてなかっただろう。

アジャイルメディア・ネットワーク(以下、AMN)主催による本イベントは、企業のマーケティング担当者を中心とした招待制イベント。ソーシャルメディアを通じたアンバサダーの獲得や組織化、活用方法などに積極的に取り組んでいる各企業の現場担当者が集まり、そうした人たちの事例報告、問題意識や課題など生の声を共有しようという趣旨で開催された。

参加者は、みな企業のマーケティング、ウェブ統括責任者、広告・宣伝、PRなど、コミュニケーション部門に携わる現場担当者や責任者が200名ほど参加していた。
参加者達は、自社の課題に役立てたいと思っているのだろう、聞き漏らすまいとメモを懸命にとっている姿が印象的だった。

一昨年(13年)、ロブ・フェジェッタ著『アンバサダーマーケティング〜熱きファンを戦力に変える新戦略』日経BP社)が刊行され、アンバサダーという言葉の普及に一役買っている(原題「Brand Advocates: Turning Enthusiastic Customers into a Powerful Marketing Force」)。
同書は、米国におけるアンバサダーマーケティングの成功事例がいくつも報告され、その手法についても紹介している。もっとも、著書によれば米国では「ネットを使用する4人に1人が何らかのブランドのアンバサダー」(ホンマかいな)というお国柄だし、同書でアンバサダーのペルソナも紹介されているのだが、それをそのまま日本に適応できるわけではないだろう。

本イベントでは、国内企業でアンバサダープログラムを実践(実験)している、下記のような"先進的な"企業担当者が集まり3つのパネルが組まれた。

<パネルディスカッション1>
「ブランドファン型アンバサダープログラムの可能性と課題」
(パネリスト)
・笹谷尚弘氏 ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社 
 マーケティング部 プロモーション課 AD プランニングマネージャー
・林直孝氏 株式会社パルコ 
 WEBコミュニケーション部
・山崎篤氏 コクヨS&T株式会社 
 事業戦略部 ネットソリューションVU シニアスペシャリスト

<パネルディスカッション2>
「啓蒙型アンバサダープログラムの可能性と課題」
(パネリスト)
・鈴木貴歩氏 ユニバーサル ミュージック合同会社 
 副社長直轄 イノベーション担当 ゼネラルマネージャー
・橋本耕氏 ヤマハ発動機株式会社 
 コーポレートコミュニケーション部 WEBグループ グループリーダー
・松本秀樹氏 株式会社PFU 
 イメージビジネスグループ 国内営業統括部長
・川口達哉氏 株式会社NTTドコモ
 マーケティング部 マーケティング戦略 担当課長

<パネルディスカッション3>
「コラボ型アンバサダープログラムの可能性と課題」
(パネリスト)
・鈴木いずみ氏 森永乳業株式会社 
 第一営業本部 リテール事業部 マーケティング統括部 食品マーケティンググループ リーダー
・津田 匡保氏 ネスレ日本株式会社 
 コンシューマーコミュニティ開発グループ ネスカフェ アンバサダービジネスユニット部長
・干場香名女氏 日本ケンタッキー・フライド・チキン株式会社 
 DIGITAL・CRM推進ユニット GM

こうしてみると、各々の企業での担当部門や部署、役職も実に多彩である。
なお、上記各パネルのテーマ、議事録的な内容や情報などについては、各々メディアから多くの詳細な記事が掲載されるだろうし、ほかのブロガーからも各々の視点で徐々に情報が上がってくることだろう。

したがって、そうしたことはそれらの諸氏に譲るとし、私が考えたこと、気がついたことだけを綴っていくのでお付き合いを願えればありがたい。
なお、2回の連載となるのでそれもご了承を。


■ソーシャルメディアの現在

ブログから多様なソーシャルメディアが日常のものになり誰もが利用して情報発信している今日、Social Graphが中心となっているSNSでは情報が拡散していくか否かを決定するキーは、いわゆる「インフルエンサー」(主に著名人など)と呼ばれる大きな影響力を持つ数人の人物をがいるかどうか、あるいはいかに探し出すかどうかよりも、情報(この場合、好意的なもの)を受容し共感や共有してくれる一般の人々が十分に存在し、そうした人々の友人や仲間といかにエンゲージメントを深められるか否かだろう。

私が勝手にそのように考えているわけではなく、それらはポール・アダムス著『ウェブはグループで進化する』(日経BP社刊)、スコット・グッドソン著『ムーブメント・マーケティング〜社会現象の使い方』(阪急コミュニケーションズ刊)などでも、同様のことはすでに語られている。
ソーシャルメディア時代の情報伝達の鍵を握るのは、一部のブロガーなどではなく親しい友人や仲間なのだ。

もとより、有力ブロガーと関係を築いて記事(情報発信)にしてもらういわゆるインフルエンサーマーケティングは、現在でもそれなりに有効性はあるだろうと私自身は思う。
しかし一方では、大手メディアのかわりにそうした「メディア化されている個人」に依存してしまうというリスクもある。

ソーシャルネットワーク(Social Graph)は独立した様々な小グループ単位で構成され、グループ間をつなぐHub的な役割を果たしているのは普通の人々だ。そうした普通の人たちとの関係構築やコミュニケーションによる信頼を獲得することが大切なのだ。
そうした親しい人々の結びつきやコミュニケーションなどから、ニュースや情報などについても強い影響を受ける。米国のマーケティングテクノロジーにおいても、普通の個人が発信する情報や体験の共有から生まれる影響力(Effect)にすでに焦点が移りつつある

そうしたグループのHub的な人を、AdvocatorあるいはPromoterとして育成できるようなCommunication Ecosystemを構築することこそが、アンバサダープログラムのキーファクターではないか。
要するに、"Small groups of friends are the key to influence on the social media(web)"ということだ。

■アンバサダーとエバンジェリスト

国内でもっとも認知度、人気ともに高いアンバサダープログラムといえば、この日もパネル3に登壇したネスレの提供する「ネスカフェ アンバサダー」がなんといっても一番知られているだろう。同社は、テレビCMも積極的に展開しアンバサダー登録を促している。その登録者数はなんと16万人

さて、アンバサダー(原題はadvocates)とは、先のフェジェッタの本には以下のように書かれている。

「あなたの商品の魅力をアピールし、見込み客を紹介し、ブランドの良さを語り、「批判者」から守ってくれる存在。」と定義している。しかも「アンバサダーは、見返りもポイントも、クーポンもキャッシュバックも求めずに、あなたの商品魅力を広めてくれる。本物のアンバサダーは、カネでは買えない。」と。

これだけ聞くと、企業にとっては自社の商品やサービスの布教活動してくれる、なんともありがたい人たちなのだと感じる。
しかし、これには人間同士と同様に信頼関係やその良さを十分に理解してもらうことが必要であり、それには時間を要するし従来の広告や販促施策、一方的な情報提供では行うのが難しい。

またアンバサダーは、ソーシャルメディア上のファンやフォロワーとも違う。彼らが求めるのは割引やクーポン、無料サンプルなど、なんらかの対価あるいは報酬を求めることが多く受動的である。しかし、アンバサダーはそうしたことを望んではいない。彼らは、自分たちの素晴らしい体験を伝えたい、他人に役に立ちたいという好意に基づいた動機が特徴で、自らの意思で自律的に活動している。

そういう意味では、購入頻度・利用頻度の多いロイヤリティ顧客以上の存在だ。著者も「アンバサダーを生み出し、活躍してもらうというのは、何年にもわたって持続性のあるマーケティング資産を手に入れることにほかならない」と明言している。

これで思い出される言葉がエバンジェリストで、最も有名なのはAppleだろう。
同社がまだPCメーカーだったころ、Macユーザーは少数派だったが、その魅力や製品の良さを周辺の友人たちや他人に伝え、積極的にMacユーザーになってもらおうとして活動していた人たちのことである。
彼らはアップル社が倒産危機に陥ったとき、ニュートンやキューブのようなデバイスで批判を浴びたときにも擁護し支持していた。
Macの熱烈なユーザであり、同社やその製品を愛すればこそである。そういうユーザーを多く生み出してきたという点でもアップル社は先駆的な企業だ。

エバンジェリストやアンバサダーは、もう「愛の精神」なのだ。愛ほど強いものはない。
All YOU NEED IS LOVE! 愛こそすべてというわけだ

最近では主に外資系ITを中心に、いわゆる「社内エバンジェリスト」制度を設けたり(ほとんどはエンジニア)、そうした職能の人材を獲得する企業が増えている。


■パネル内容について考える

AMNが、このアンバサダープログラムの提供開始したのは2年前だそうで、そのときには2社しかいなかったクライアントも、現在このプログラムを導入している企業は20社にまで増えているとのこと。

本プログラムを導入するきっかけは企業によって異なるが、大きく分ければ下記の2つの方法があることが語られた。

(ケース1)キャンペーンをきっかけとして導入に踏み切る
(ケース2)担当者個人が密かに開始、その後は効果を見ながら徐々に導入する

また、どの企業の担当者も、新しいことを社内に導入するには異口同音に苦労をしているようだ。
印象的だったのは、森永乳業株式会社の担当者が、自分たちの製品は所詮は傍流だったからある程度の自由にいろいろと試みることができた。もし、会社の命運を左右するようなブランドであれば、そうした冒険や挑戦は叶わなかっただろうと。さもありなんと思うエピソードだ。

その他では、以下のようなことを語っていたのが印象に残った。

1.広告費換算は測りやすいが、広告効果や価値(費用対効果)は難しい。しかし、ECと一緒だと成果が測定しやすい。
2.リアル体験がインセンティブ、他人事ではなく自分事化を推進する
3.社内への啓蒙活動(社内アンバサダーの育成)
4.フロー(キャンペーン)からストック(持続的なコミュニケーション)へ
5.ファンクラブとの違い
6.アンバサダーのモチベーションは「おもてなしの心」(充足感)
7.市場やターゲットではなく、個人にフォーカスする視点
8.テクノロジー社会だからこそ、効率主義ではないハイタッチが価値を高める
9.マスの影に隠れやすい部分を視覚化する


今回の各パネル担当者もそうしたことを実感し試行錯誤しながら、アンバサダープログラムを推進している。「オピニオンリーダーから一般のアンバサダーへ」(ScanSnap松本氏)という言葉に象徴されている。

ネットとリアルの融解は限りなく進んでいることを、ここでも実感する。

(続く)


(関連リンク)
▼「アンバサダーサミット2015」
http://agilemedia.jp/ambassador2015/

▼インバウンドマーケティング×アンバサダー・マーケティング出版記念セミナーについての私的メモ
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/501.html

▼ネスカフェ アンバサダー
http://nestle.jp/amb/


(すすめブログ)
・「ソーシャルメディアサミット 2012」に参加して(1)ーーソーシャルメディアバブルの向こう側
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1663165.html

・「ソーシャルメディアサミット 2012」に参加して(2)ーーソーシャルメディアの測り方
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1664104.html

・「ソーシャルメディアサミット 2012」に参加して(3)ーーソーシャルメディアのこれから
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1664639.html

・ブログの未来とはー「ブロガーサミット2013」に参加して思う
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1812995.html

・『あなたがメディア!』ーーダン・ギルモア来日記念ブロガーイベントに参加して
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1566170.html

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プロフィール

梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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