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» 2015年2月 4日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(本論)

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私的公開日誌@ウェブ暦150204.01

前回の序論に続き、今回のブログはいよいよ本論となる。

さて、前回のブログではソーシャルメディアの現在、パネルで印象に残った点、アンバサダーの3点について私なりのおおまかな考えを述べた。
テクノロジーの発達でマーケティングオートメーション(SFA、CRM、CMSなど)が進み、効率的かつ最適運用が可能になった今日、なぜあえて手間も時間もかかり、成果を可視化しにくいアンバサダープログラムを実施しているのか。それは、企業が消費者からの「愛」を獲得したいからだと述べた。

それでは、なぜ愛されたいのか。それは「マーケティングコミュニケーションの本質とはなにか」という根本的かつ本質的な問題にまで関わる。このブログでは、より深くそれについて話しをすすめることができればと思う。


■マーケティングの本質とはなにか

マーケティングは、これまでにも時代(市場や顧客と、最近ではテクノロジー)とともに変化してきた。特に、米国では80年代半ば以降はそうした変化が顕著になったように思う。それまで、マスマーケティング中心としたコミュニケーション戦略から顧客一人ひとりの購買履歴や属性などを基に、個別に展開されるマーケティング手法へ大きく舵を切った。国内においても顧客から「個客」へ ということが提唱され、似たな状況であったように記憶している。

90年代に入り、日本でもレジス・マッケンナ著『ザ・マーケティング〜「顧客の時代の成功戦略』(92年ダイヤモンド社)、ドン・ペパーズ/マーサ・ロジャーズ著『ONE to ONEマーケティング〜顧客リレーションシップ戦略』(95年ダイヤモンド社)などが相次いで翻訳され、広告やマーティン業界内でもずいぶんと話題になったものだった。
後者では、私は広告代理店の傭兵マーケッター時代だったが、ある外資系の広告代理店の人からドン・ペパーズの来日講演に費用を出す、そのかわりに講演内容を聞いて私の感想や考え、意見をレポートにまとめて欲しいと頼まれたことがあった。

よくマーケティングを一言で説明するのは難しいと言われる。また、日米においても、マーケティング協会が、その時代や市場の変化に応じてその定義を適宜変えている。
コトラーも、マーケティング1.0(製品中心志向)から、齢80歳をこえてマーケティング4.0(顧客が享受する商品サービスを利用した結果重視・実現された姿)にまで至っているのだ。
しかし、定義をしようとするから難しいのだ。定義は時代や状況とともに変わるものなのだ。

しかし、定義は変わっても、その本質(原理・原則)は変わっていないし、それは一言で答えられるというのが私の考えである
では、本質とはなにか。全てのマーケティングコミュニケーション活動は、いわゆる「差別化」と「競争優位性」のために実行されている。

すなわち、ある企業が提供する製品やサービスを、競合のものではなくではなく自分たちを認知して選んで欲しい。競合より自分たちの企業に好意を感じ、製品が優れていると納得してもらい、つまり自分たちの製品やサービスを購買させるために様々な活動(仕掛け)を行っているのである。
全てはその目的(購買や消費行動に結びつける)のために活動している。それはソーシャルメディアが日常的にないまでも不変だ。

もとより、NPOやNGO、ボランティアなどの社会的な貢献活動をしている団体や組織は、これとは事情が少し異なる。そうした団体では利益を優先するよりも、自分たちの団体の理念、円滑な活動への理解促進、支援や協力あるいは共感、さらには積極的な参加を促すようなことが目的となるるだろう。
それでも、同じように「愛」は獲得したいだろう。

しかし、それらの活動に関わらず、そのコミュニケーションにおいては、これまでのように提供者側の視点による論理や説明、事情や都合で情報を届けたりコミュニケーションするのではなく、その正反対(消費者視点)でなければその目的が達成できない状況となっている。

ネット社会の今日、それまでの四大メディアに新たにソーシャルメディアが加わり、徐々にメディアとしての有用性や価値が高まりつつある。
それを有効に活用できるか否か、そこに他者との「差別化」(厳密にはdifferetiation)と「競争優位性」確保による企業(団体・組織)の成長持続、拡大あるいはレゾンデートルがあるのだから。

だから、マーケッターというのは、ソーシャルメディア担当であろうとも、「頭」(マーケティング)を企業側に置いて、「心」(コミュニケーション)だけは消費者側においておかねばならなという存在なのだ。そこには矛盾があり、綺麗事や耳障りの良いことをいくら並べても、企業は営利団体や組織であり「全ての活動は企業利益ために」を常に求められている事実は誰も否定できないだろう。

したがって、その本質さえ理解していれば、刻一刻と変化する戦局(市場や消費者、競合、テクノロジーなど)が、どのようになろうともその時々に最適な戦略、戦術や施策を実行すれば良い。それがいまではソーシャルメディアといわれている領域だ。


■発想を転換することの難しさ

アンバサダーとのコミュニケーションというのは、単にこれまでのメディア(四大媒体)にソーシャルメディアが新たに加わったというだけではない。
20世紀は、マスマーケティングだけが中心だった。ターゲット、セグメンテーション、ポジショニング、集客、囲い込みなど、これまでマーケティングコミュニケーションは、ずっと企業側の都合や論理で実行されてきた。ソーシャルメディアの場合、これまでのメディアに対してもっていた発想や視点など、その考え方を180度転換しなければならないのだ。

これは「言うは易く行うは難し」だ。2000年以降、偶然にも私はベンチャーやスタートアップ企業でマーケティングの責任者を歴任してきた。05〜06年当時、ブログというCGM・UGC(当時はソーシャルメディアという言葉がなかった)プロモーションがコミュニケーション戦略に使えるようになったっとき、インターネットのおかげで無料で使えるメディアが増えてありがたい時代だと考えていた。
しかし、そうしたメディアで実際にいくつかの施策を実行したとき、その考え方が間違っていることに気がつかされた。
例えば、集客という言葉で考えてみよう。これまでは企業側が集めるだったが、いまでは消費者側が集まる、むしろ集まりたくなるのでなければならない、というふうに同じ言葉でも含意するところは違っている。

いまでは、多様なソーシャルメディアを活用している私だが、長らく20世紀的なマーケティング戦略に毒され続けてきたので、従来の発想を捨てきれずにそうした旧来のフレームワークのまま、登場してきたそれらの新しいメディアをとらえていた。そうした過去の毒が完全に抜けるようになるまで試行錯誤や格闘を繰り返し、恥ずかしながら1年半を費やしてしまった(^_^;)。

だから、今回のパネリストたちが、なかなか旧来のそうした発想から切り替えたり転換できない社内の人たち(主に上司や経営幹部)に接し、みなが苦労している状況を異口同音に語っていることにも納得する次第。
そうした事情については、2年前(13年)に本ブログでも「「マーコム」という言葉が死語となる日ーーコミュニケーションエコシステムへの大転換」という記事を書いたので、興味のある方はあわせてご笑覧願えればと思う。

ところで、5年ほど前、着想、着眼、視点、切り口、発想、洞察などは、徹底して考える抜くことから生まれるということを、サイボウズの創業者の高須賀さんから聞いたときは、膝を打ち穿つことばかりで思わず我が意を得たりと感じた。
変化の激しい今日では、ベストプラクティスやベンチマーキングも困難で、正解や解答のない時代だ。
しかし、人は経験を積んでいるほど、経験豊富になればなるほど、これまで遭遇したことない状況や新しい現象に対しては判断がどうしても効かなくなる。だから、「捨てるべきは捨て、残すべきは残し、学ぶべきは学ぶ」という姿勢を、常に課すように私自身は努めている。

スマートフォンが発達し、いつでもどこでもネットにアクセスする今日、位置情報、デジタルサイネージ、ビッグデータ、リアルタイム分析などを駆使し、最適な情報を消費者に届けることが急務だろう。
しかも、これまでのように企業側の都合ではなく、消費者の都合や事情にあわせて邪魔にならないように、いやむしろ喜ばれるようにだ。

ありがちなのは、ソーシャルメディアの公式アカウント開設して、プレスリリース、広告やキャンペーンの告知だけを掲載していているのが見受けられる。自社に関する"告知活動"だけに利用している限りは振り向いてもらえない。しかもリリースは業界向けの文章である。「いいね!」などは集まるわけがない。それでいて、ファンやフォロワーなどの数(数字)だけに目を奪われ気にしているし、それしか指標にしていないところが多い。
それは、これまでのメディア発想や視点を、そっくりそのままソーシャルメディア上で行っているだけに過ぎないし、それで効果がないと言っている人たちがいるのも事実だ。

ソーシャルメディア自体は歴史も浅く、米国においてすらネットマーケティングはたいていはうまくいかない方が多いとのこと。自分の施策に満足を感じるのは20%(5人に1人)だそうなので、焦ることもないだろうし試行錯誤もまだしばらくは続くだろう。

結局、マーケティングの本質を理解しなければ、「ツイッターマーケティング」「フェスブックマーケティング」、「LINEマーケティング」、今は「○○マーケティング」、いや次世代は「△△マーケティング」だと、トレンドや小手先のツール(プラットフォーム)、テクニックやノウハウに右往左往してしまう。そのたびにマーケティング的バズワードに振り回されたり踊らされるだけで、企業や担当者にとってはなんの気づきもなくなにも身につかないままで終わるだろう。

また、ここのところコンテンツマーケティングということが盛んに喧伝されている。
しかし、一部では単なる広告ノウハウと勘違いしている人たちも見受けられる。小手先のノウハウは変えられるが、人の発想や考え方あるいは感情は一朝一夕にそう簡単には替わらないし変えられないということも、同様に肝に銘じておかなくてはならいだろう。


■21世紀のコミュニケーション= c > a(結語)

さて、ここまで書いていて気がついたことがある。それはあの金科玉条「囲い込み戦略」である。
アンバサダープログラムとは、つまり熱狂的に企業、製品やサービスを支持あるいは応援してくれるアンバサダーを、企業が巧みに取り込み、組織化し、活動を積極的に促し、コミュニケーション戦略の先兵(戦力)として計画的に推進しようとすることである。
であるとするならば、これは昔から行われている「顧客囲い込み」の進化形、21世紀的な発想や視点に基づいた新戦略である、といえるのではないかと。

一方、逆にこうもいえるかもしれない
この情報化社会に囲まれているアンバサダーは、企業のすべての情報(製品・サービス、各種コミュニケーション施策、評判など)を掌中に収めるのが可能であり、そうした多くのアンバサダーに囲い込まれているのはむしろ"企業側の方"なのだ、という視点で語ることも可能だ。

しかし、いづれにせよ20世紀的な囲い込みとは異なる
企業と消費者(アンバサダー)の相互依存が高まり、コミュニケーションを通じたエンゲージメントがますます強化されることだけは確実である。
すなわち、アンバサダーが増えることは、それだけ「何年にもわたって持続性のあるマーケティング資産を手に入れること」になるが、同時にそれは多くのアンバサダーに企業自体が取り囲まれている状況を生み出す

アンバサダーたちは、企業側がなにかを頼まなくても、積極的かつ自律的に企業や製品などの魅力を様々に伝えてくれる。そのような視点や発想からみれば、アンバサダーが企業になりなり代わってリードナーチャリングしてくれるような存在だろう。

しかし、将来アンバサダーが増えたとしても、その人たちの存在を当然のこのように思ってはいけないと、フェジェッタも戒めている。
したがって、もしもそうしたアンバサダーに離反されたり離脱された場合、企業業績や評判を大きく損なうだろう。「囲い込み」というものが、明らかに20世紀とは異なる次元に転換している。

では、それに代わるべきインセンティブとはなにか。
それはその企業ならではの独自性溢れる「もてなしや贈り物」である。この場合、それは金銭や物品ではなく、ほかでは得がたいユーザー体験(その愛に誠実に報いる)を提供すること。そのことにこそアンバサダープログラムの成否がかかっている

だからといって、例えばアンバサダーへのインセンティブとして、金品やそれに類する対価を支払うのは、ブログのペイパーポスト、ステルスマーケティングと同様の問題に直面するだろうし信頼は勝ち得られない。同書でも、アンバサダーには報酬や対価を支払うことはけっしてしてはならないと、何度も繰り返し述べている。
そう、愛とは実利的な対価を求めないもの。

年間300回以上の講演を引き受けられているライフネット生命の出口さん
書評だけではなく、読書や古典、キャリアや生き方など様々なテーマについて、ブログや新聞・雑誌での執筆、はてはテレビやラジオでのインタビュー・対談、加えて全国を飛び回る講演活動などは週末の休みでも1日2本こなされている。しかもほとんどが手弁当であるというのには頭が下がる。
出口さんご自身は、社内アンバサダーという明確な自覚をもって活動しているのではないだろうが、まさしく社内アンバサダーの鏡だと思う。
このような活動にはB to C、B to Bは関係がないことだ。
いま話題のピケティ風に表せば以下のようになる。

         c > a

cとはコミュニケーション(communication)、aは広告(advertisement)である。

さて、このアンバサダープログラムが、今後のマーケティングコミュニケーション戦略をどのように導いていくのか。企業において、新しいKPIの道標とでも呼ぶべき状況が思いのほか早く到来するかもしれない。

21世紀になり、企業と消費者のコミュニケーション関係は、新たな次元になってまだまだ発展途上である。一方で、どこに向かっていくのか不明だったり未知の部分もあるだろう。
すなわち、情報化社会の今日では、それまでの市場原理や合理性だけではなく、提供する側と消費する側での互恵関係を象徴している。アンバサダーがそうした状況を牽引しつつある。

もし、将来、どの企業にも社内アンバサダーが一般的な職種となり、社外では様々な企業や製品・サービス、ブランドのアンバサダーが存在するような時代が到来した社会、そのときこそマーケティングコミュニケーション、企業と消費者の関係性、市場における消費者行動はどのように変化しているだろうか?
ちなみに、ネスレではアンバサダー専任が4名すでにいるし、ヤマハ発動機では新たに2名のアンバサダー担当者を確保したとの報告があった。

CNET Japan、ITProですら、各々CNET Japan Marketer、ITPro Marketingのようにマーケティング専用サイトを設けている今日、誰でもがソーシャルメディアを利用し、その情報に触れ発信する。だから、マーケティングマインドは社員すべてがもつ必要があり、かつてのように専門部署に任せ(丸投げし)ておけばよい時代はとっくに終わっている

今回のパネリストたちからの事例報告や感想・意見などを聞くとができたのは、気づきや発見というより、私がこれまで実務を通じて経験したり学んできたこと、米国の最新マーケティング事情などで得てきた知見など日頃感じていることについて、むしろ確認あるいは確信する作業となる貴重な機会となったように感じた。

そうした点でも、消費者と最も近しい現場で試行錯誤しながらも様々な施策を行い、そうした事例を忌憚なく紹介や報告していただいた各企業パネリストの方々には大いに感謝している。
あわせて、こうして自分なりの考えをまとめるにあたり、ブロガーとしてご招待に与りよい機会をいただいたアジャイルメディア・ネットワークにも御礼を申しあげる。

最後に、本サミットに参加して感じることは、マーケティングコミュニケーションはやはり面白く、興味はいつまでもつきないものだいうことが実は一番の気づきだった。

(了)


(関連リンク)
▼アンバサダーサミット2015を開催しました。
http://agilemedia.jp/news/info/ambassador2015.html

▼指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(序論)
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/718.html

▼「マーコム」という言葉が死語となる日ーーコミュニケーションエコシステムへの大転換
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/333.html

▼切り口とアイデアは"セット"の意味とはーーBRIDGE2010 Septemberに参加して(1)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1247506.html

▼同質化から飛躍的なアイデアは生まれないーーBRIDGE2010 Septemberに参加して(3)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1250824.html

▼最新調査から読み解くB2Bコンテンツマーケティング戦略の秘訣30
http://blogos.com/article/103320/

▼コンテンツショック! もしくは、コンテンツマーケティングの終焉
http://www.seojapan.com/blog/content-shock

▼主要企業のソーシャルメディア利用率、世界が国内を大きく上回る
http://at21.jp/web/topic/topic18.html

▼マーケター8割が「デジタルPR」に注目
http://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000477.000000112.html


(すすめブログ)
・【書評】『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(1)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1556667.html

・【書評】『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(2)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1562738.html

・「読めば即ち教養となる」ーーライフネットの出口さんは、読書だけではなく人生の「名人」
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1866710.html

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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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