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» 2015年9月 4日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 21世紀的カフェ文化の地ーー「シリコンバレーにおける最新PRトレンド」に参加して

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私的公開日誌@150904.01

先日(8/6)、「注目すべき海外先進メディアとトレンド最前戦」という海外メディア事情のイベントに参加したが、今回は「シリコンバレーの最新PR」という、またも海外事情についてのイベントに参加した。
海外に出かけることがない私には、こうした海外動向についての報告会は実にありがたい。

前回はスマートニュースのセミナールームでの開催だったが、今回はクラウド名刺管理で有名なSansanセミナールームで開催された。
主催したのはPR Tableで、恥ずかしながら(^_^;)友人の紹介で初めて知った。

この日の登壇者は、シェイプウィン株式会社というこちらもお初のPR企業代表の神村優介さんで、PR業界出身ではなくセガトイの企画畑出身という変わり種だ。現在では、オンラインPRを主業務とし、大手企業のクライアントとも直取引しているとのこと。

私が、かつて(80年代末から90年代)広告代理店の傭兵マーケッターをしていたころから、日本のマーケティングコミュニケーション業界というのは、諸外国に比べるとかなり特殊だということはわかっていた。
雑誌『宣伝会議』で海外(特に米国)の広告代理店の事情や動向、またデビッド・オグルビーの著書などを読んだとき、日本とは随分と違うのだなという印象だった。
米国では一業種一社という考え方が常識だということを知って驚いた。

この日は、おもにサンフランシスコやシリコンバレー周辺のPR業界の実情についての見聞録という趣で、特にベンチャーやスタートアップが集中しているエリアでもあり、今回は特にそうした話しが中心だった。

シリコンバレーは、サンフランシスコのベイエリア南部にある複数の都市群一帯の呼び名(具体的には、サンノゼ、マウンテンビュー、サニーベール、サンタクララなど)であることは、今日では十分に知られている。
そうしたエリアには、大手ハイテク企業のほかにも様々なベンチャー企業、スタートアップ(予備軍)、エンジェル投資家、VCなどとともにPR企業までもが集積している。

さて、当日参加ができなかった人たちに少しでも役立つことがあればと思い、私が気づいたことや感じたことを備忘録として残しておこうと思う。
もちろん、私のブログなどより、下記のいくつかの(関連リンク)を閲覧するだけ、十分な気づきやヒントなど有益な情報を得ることができるだろうことは保証する。


■シリコンバレーーーそれは21世紀のカフェ文化

かつて、フランスにはカフェ文化があった。
パリにカフェができたのは、フランス革命(1789年)より前だといわれている。そしてフランス革命もカフェとの関係が深く、市民はこうした場で盛んに議論や政治談義していた。
19世紀以降、こうしたカフェには詩人、文学者、哲学者、画家などが多く集まって交流が盛んになり、そこから様々な芸術や思想など、新しい文化発信の拠点となった。

シリコンバレーは、さしずめ21世紀のカフェ文化の地だろうと思う。
起業したばかりあるいは起業予備軍の若者たちは、オフィスを構える必要もなくカフェに集い、様々なテクノロジーやサービス開発にしのぎを削っている。
しかも、社会や世界の不満や不便を解決するのが使命だという気概で企業する人たちが多い。

そうした場には、エンジェル投資家やVCなども出入りし、新しい有望なタートアップを発掘しようと構えているし、PR企業もそうした場に集っているのがシリコンバレーらしい。スタートアップ向けの保険があるというのがいかにもという印象だ。

こうした環境では、つねにスタートアップや予備軍によるピッチイベントが行われており、そうした場でチャンスをつかむのが基本だし、大きなカンファレンスやフォーラムなどでも、ライトニングトークが用意されている。
そうした様々なリアルの場では、パブリックスピーチも開催され、ユーザーや投資家に向けたスピーチだけでなく、メディアからの取材やYoutubeのような動画サイト掲載でも活用されているとのこと。

日本人からすれば以外だったのが、PR会社が主催するイベントというは少なく、PR企業にもよるのだろうがそれは主要業務ではないというような話しだったこと。イベント開催は、シリコンバレーではどちらかというとメディア側が用意し、PR会社はスタートアップのCEOやCTOなど積極的に出演させることが主目的のようだ。

したがって、スピーチトレーニング(インタビューの受け答え含む)、効果的なプレゼン手法から、オーディエンスに応じてスタイリストなみに好ましいファッションまでコンサルティングすることも含め、とにかく広告・宣伝以外のことすべてがPR業務のような感じだ。

今日では、国内の集まりでもピッチやライトニングトークが数多く開催されるようになっている。
しかし、プレゼンの仕方、スピーチなどが不慣れで残念ながら伝わらないことがあるのをよく見かける。日本企業では、いまだに記者会見などで(特にお詫び会見など)広報部の用意した原稿を小学生なみに棒読みが野放し状態なことを見ても、PR業務のやれることはまだまだあるだろう。
それらもサポートするのが本来のPR代理店の役目になるはずなのだが、国内ではそこまで徹底してPR業務を行っているような会社はないというのが実感だ。

さて、そうした多くの大小様々なPR代理店が、サンフランシスコやシリコンバレー地域には集まっており、世界最大のPR会社Edelman、同じくFleishmanHillardのような大手PR代理店も周辺にオフィスを構えている。
上記のような世界的なPR代理店を除けば、専門分化が特に進んでいるのも米国的であり、そうしたスペシャリストたちによるPR企業が群雄割拠している。

それというにも、そうした企業のミッションは「スタートアップをグロースさせるのがPRだ」との意識が強く、だからこそHubSpotのようなSaas系マーケティング支援ツールを提供する企業に投資するVCも多い
紙媒体はPR効果を期待できないとのことで、もちろんほとんどがワイヤーサービス(オンライン広報)が基本である。


■戦略PRという言葉

ところで、ほんの10年ほど前、私が電子書籍企業に在籍していたとき、利用していたPR代理店はプレスリリース作成と各メディアにそれを郵便で発送することが業務だった。なんとも古色蒼然とした古い手法の企業(企業名は忘れた)のだろうと、当時の私は感じたものだった。

我が国では、どうしてもパブリシティ(メディアリレーション)がPR・広報業務だと、いまだに勘違いしている人たちは多いと指摘されている。プレスリリース、インタビューなどを通じ、各メディアにニュース(報道記事)としてその企業に関する情報を取り上げてもらう活動は、それはそれとしてもちろんいまでも重要なことであるが、それがすべてでははない。
それでは消費者を向いていないことになる。メディアだけを向いているようなものだろう。

しかし、ソーシャルメディアの伸展と普及で状況は変化した。消費者と直接向き合ってコミュニケーションする必要性がでてきた。特に、日本以上にソーシャルメディアの普及や発達が著しい米国ではなおさらだ。
PRは、Public Relationsという意味であり、その発祥の地の米国では公衆に向けて情報発信や関係構築を行うのがPRの役割だとの明確な意識が徹底している。さらに、略立案においてはデータドリブンだ。

我が国では、戦略PRという言葉が一時は喧伝されたが、ソーシャルメディアが日常的になったという追い風もあるが、この言葉自体の含意するところは、本来のPRに帰ろうということを主張しているような印象を私は受けた。

米国では、メディア業界を含め、なんらかのコミュニケーション分野の職業に就きたいと思う学生は、ジャーナリズム論、マーケティングや経営戦略、社会心理学などを学び、そこから業界でのキャリアをスタートさせるのが通例だ。

さらに、大企業の広告・宣伝やPR部門のブランドマネージャークラスになれば、マーケティングや経営学のMBAを取得しているので、そうした人たちをクライアントに要している代理店では、マーケティング関連の知識や経験、実績がなければクライアントの担当者には当てない。
もちろん、CEOもマーケティング畑の出身者が多いお国柄ということもある。

それに比べると、日本ではそういうケースは希である。
最近の実情については詳らかではないのだが、20世紀の広告・宣伝、販促も含め、マーケティングコミュニケーション全体に戦略がなさ過ぎたのだ。これは代理店だけの問題ではなく、クライアント企業も同様だ。

代理店の傭兵マーケッター時代の話しであるが、私は、外資系の代理店と一緒に仕事をしたことがあるが、クライアントも外資系だったし戦略性が明確だった。
また、7〜8年間だが、ある大手のPR代理店のソーシャルメディアプロジェクトを手伝うことになったのだが、それは社内にマーケティングコミュニケーションについて、戦略的な視点で立案できる人材がいないということで、ある友人から声を掛けられたことがあった。
ひょっとしたら、現在でもそういう事情はあまりかわっていないのかもしれない。


■米国PR企業ーーシリコンバレーのエコシステムそのもの

そもそも、マーケティングコミュニケーションにおいて、本当に戦略性を勘案すれば、マーケティング、広告・宣伝、PR・広報、販売促進など、20世紀的な縦割り行政のように旧態依然とした組織のまま遂行し続けていること自体がおかしいと企業も気づくはずだ。

マーケティングコミュニケーションの本質(定義ではない)を考え、その最適化という視点からすれば戦略的なグランドデザインや組織体制・予算配分になるのは当然なのだ。メディアの伸展・拡張に対応し、コミュニケーション自体をより効果的にする発想と戦略の必要性が求められている。

それが今日ではソーシャルメディアを機軸にすえたPR手法が有用で効率的だということだけなのだ。本質を理解していなければ、新しいメディアが登場するたびに右往左往したり、メディアに振り回されてしまう。

ソーシャルメディアが、これからもずっとメディアの中軸であり続けるか否か、現時点ではわからない
メディア自体、コンテンツ中心に考えれば、オウンドメディアか分散型メディア(BuzzFeedなど)に大きく大別できるし、いずれにせよ当面はその方向性に収斂していくだろう。

シリコンバレーのPR業界では、先のHubSpotだけに限らず分野ごとのワイヤーサービス、データベース、効果測定をはじめ様々なツールが豊富に用意・開発されており、そうしたテックツールを駆使してPR業務を実行する。

ところで、これまでにも懲りずに何度も繰り返されているステマだが、Yahoo!ニュースがステマ記事の一部の配信停止、ハフィントンポスト日本版ブログ管理・調査チームにステマと判定されいくつかの記事名とそれらブログ削除が断行するなど、立て続けにニュースざたになった。

米国にはそもそも記事広告というものは存在しないと聞いたことがある。その
国PR業界では「記事広告はれっきとした広告である」との認識なので、PRプロフェッショナルたちは恥だと考えているそうだ。

結局、我が国でステマが依然として存在(温存)し続けているのは、クライアント企業・代理店・ライター(ブロガー)の三位一体としてメリットがあり、業界ぐるみの利権構造で根深い体質的な問題なのだ。

私も製品やサービス発表のブロガーミーティングに、ありがたくもお声かけいただき参加することもある。しかし、そうした場合でも、ブログを書くか否かは私の自由だし強制されたこともない。また、ブログを書いたことで金銭的な謝礼を受けたことはない

さて、最後に、日進月歩なテクノロジー業界だが、それでも効果指標(KPI)がまだ確率されてないことに悩んでいるのは、実は米国でも同様だとのことだった。
もとより、その戦略、目的や企業の成長ステージによっても異なるだろう。インターネットを活用したPRが主流となってきたのは、21世紀それもソーシャルメディアが日常的に利用されるようになったこの10年ほどだ。

今回の報告会は、シリコンバレーにおいては、PR業界もそのエコシステムにしっかりと組み込まれているのだ、という事情がよくわかる体験談だった。

私に周辺にはPR Table、シェイプウィン株式会社に限らず、20世紀的PR企業ではなくいかにもソーシャルメディアが日常的なツールとなっている、21世紀的な視点や手法のマーケティングコミュニケーションのベンチャー企業が多い。

そうしたとき、かつての電子書籍企業時代のあの20世紀的PR企業は、いまはどうしているのだろうと脳裏をよぎった。


(関連リンク)
▼シリコンバレーの最新PRトレンドとは!?
http://blog.pr-table.com/news/siliconvalley_shapewin_event/

▼【実践!シリコンバレーPR】アポなしでメディアキャラバンできるのか?
https://www.shapewin.co.jp/blog1134

▼PRプロフェッショナルの情報源とは?「オンライン専業」も台頭、米国最新メディア事情
http://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201508/pr-paradigm-shift/005812.php

▼知ってるつもりの外国事情(3)――ジャーナリストから見たエレクトロニクス広報の日米の違い
http://ednjapan.com/edn/articles/1406/09/news012.html

▼記事と偽る「騙し広告」本当に排除できるのか
http://toyokeizai.net/articles/-/79618

▼ステマ問題でヤフーが本格調査  浮かび上がる"黒幕"たちの存在
http://diamond.jp/articles/-/76611

▼日本人はマーケティング4.0の議論に入る前に、まず「マーケティング」の意味を腹落ちすることが必須ではないか
http://www.advertimes.com/20150825/article201114/

▼「マーケティング」と「報道」をつなぐ戦略PR--広告排除からPR発想の"つながり"へ
http://japan.cnet.com/marketers/news/35068785/


(おすすめブログ)
●「注目すべき海外先進メディアとトレンド最前戦」に参加してーーメディア"感覚"とその未来について思う
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●指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(序論)
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●誰がためにブログは書く(1)ーーオーガニックブログにこだわる理由
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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、そうした多様な社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会、Marketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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