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» 2016年1月15日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 「攻めの広報」の"攻め"とはなにか。その3つのポイントーー「スタートアップのための攻めの広報戦略」に参加して

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私的公開日誌@20160115.01

ここのところ、広報業務についてとてもためになる話を聞く機会に恵まれている。最近、よく耳にする「攻めの広報」という言葉だが、それは一体何をもって「攻め」というのか気になっていた

はじめて青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)主催のイベントに参加した。
この日のテーマは、「スタートアップのための攻めの広報戦略」だったからだ。しかも、登壇者がホフマン・ジャパン株式会社(The Hoffman Agency Japan)の野村真吾さんだ。

The Hoffman Agencyは、シリコンバレーエリアに本社を構え、テクノロジー分野に特化した独立系PR企業で、同エリアのクライアント企業を数多く抱えている。
同社は、欧州をはじめとしてワールドワイドに支社を設けているが、特にアジアパシフィックエリアには支社も多く、その日本法人代表取締役兼北アジア担当バイスプレジデントが野村さんなのだ。
これほどグローバルに展開しているにも関わらず、全世界での社員数は110名ほどという非常に少数先鋭な企業の印象だ。

野村さんとは、数年前、広報関係者の集まりで面識をいただいて以来のお付き合いなのだが、こうした業務に関する話しをきちんと聞くのは実は初めてだった。
野村さんご自身、大学を卒業後、一貫して広報畑に身を置いてきたキャリアの持ち主で、日米の広報ビジネスに大変に精通していらっしゃるうえに、具体的なケーススタディも交えての話しは、私たちにはお馴染みのB to C企業から一般的には知名度の薄いB to B企業の事例もまじえ、ヒントのつまった内容だった。

今回はそれについて、野村さんの有意義な講演をうかがいながら自分なりの備忘録を作成し、皆さまにもお裾分けすることでなにがしかの気づきやヒントの望外の喜びである。
ただし、ここでの気づきや学びは、あくまでも「私にとっての」という但し書きがつくことはご承知のほどを。
今回は、いつもより分量が少ない短く簡潔な記事としたい(^_^;)。


■「攻め」の3つのポイント

広報業務全体を考えた場合、現状把握→戦略立案→戦術→評価・検証というフローのPDCAサイクルを繰り返すことだが、それでは広報においては一体なにが「攻め」なのか、その要素やポイントとはどういうことをいうのか。

さて、これはなにも広報に関する業務に限ったことではないのだが、「できること」、「したいこと」、「すべきこと」で各々レイヤーで分けて考えることが、実はできそうだができでできていないことが多い。
ありがちなのは「できること」から手を付けることだ。

ここで重要なことは、それがどのようなことであれ事案の大小にかかわらず、抽出された「すべきこと」が最優先事項である。
なぜならば、その事項はできる・できない、したい・したくないなどに一切関係なく、「すべきこと」=you must(need to)なのだから。
ましてや、顧客がいるのであればなおさらである。

さて、ポイントは、下記の3点だと私なりに了解した。

(1)的確な現状把握に基づく戦略の立案
現状把握は、自社だけではなく、競合、市場(トレンド)はもちろん、法令や規制などにも考慮する。また、メディア論調も十分に検証する。これは、自社だけではなく、競合や市場について同様で、それら情報がどのように記事に取り上げられているのかなどを確認する。場合によっては、時間をかけ念を入れてメディア関係者に直接聞き取り調査を実施することもあるそうだ。

戦略の立案では、差別化(defferentiation)、それに基づくポジショニングなどの対立軸などで明確化し、自社の強み(独自性)を的確に訴求し、それに基づいて際立たせたストーリーとメッセージを考案する。
この場合、多くを伝えようとせずにユーザーに一番のメリットを理解しやすく訴求すること。特に、ユーザーがその製品やサービスを実際に利用しているイメージを具体的に喚起できるようなコンテンツとすることが重要。

(2)コミュニケーション施策における創意工夫
実際の施策において、キャンペーンやイベント(期間限定や特典など)だけではなく、ブロガー(ライター)、市場を牽引するイノベーター、情報発進力が高いインフルエンサーなどを上手に巻き込む。また、自社のロードマップ、市場トレンド解説、独自調査による公表資料など、様々な関連するコンテンツを用意し、市場への啓蒙活動をあわせて継続的に行うような様々な仕掛けと仕組みを用意すること。
また、正攻法だけではなく、ユーザーも驚くような奇策(アイデア)も用いることが、むしろメディアなどが積極的に話題として取り上げたくなるようなものとなる。

さらに、実際のユーザーとなった顧客からの声を紹介する。もちろん、顧客の承諾が必要であることはいうまでもないことだが、こうした「第三者をして語らしめる」ことが信頼獲得につながる。特に、横並び意識が強い我が国の組織では、なおさら他者の導入事例や効果を知りたがることが顕著で有効である。

(3)消費者の都合(視点や立場)に立ったコンテンツ
広報活動における3大コンテンツは「ヒト・モノ・コト」である。どうしても、モノ(製品やサービス)に意識が向いてしまいがちだ。
しかし、「ヒト」であれば、トップのインタビュー、講演会、開発ストリーやワークスタイルの紹介など、コーポレートコミュニケーションや企業ブランディングという視点からも共感を獲得にもつながる。

また、ありがちなのが、サイト開設と同時にプレスリリースすることは避ける。そうでないと、賑わいがないサイト(特にコミュニティの場合)では無意味になってしまう。fb公式ページでも同様で、ページ開設したらすぐにでも知らせたい気持ちはあるだろうが、コンテンツがなにもない時点では義理での「いいね」が得られるだけである。


■3つの気づき

そのほかにも、実際にグローバル企業での経験から以下の点について、お話しを聞くことができた。

(1)SEOの強化を推進している各PR企業
ホフマンに限らず、ここのところシリコンバレーのPR企業ではどこもSEO強化を図っているとのこと。その場合、外部の専門会社とパートナーとして連携するのではなく、インハウス化を進めてスペシャリストを抱えている

Googleは頻繁にアルゴリズムを変更するし、それにあわせてキーワードも適宜変更する必要がある。
しかも、かつてのような単純な被ページリンク数からキーワードの埋め込みだけで検索結果の上位を目指すSEOは過去の話だ。
さらには、コンテンツの品質やその執筆者が誰なのか(評価)までも反映されるようになっている。

今後は、著しいディープ・ラーニングの進化とともに、SEOもより高度になり年単位どころではなく、近い将来は極端に言えば日々刻々と変化する可能性すら秘めているので、そうした変化が常態化する環境や状況への対応の遅れは致命的になるだろう。

(2)オウンドメディアについて
ポスト・ソーシャルメディアの今日では、トリプルメディア論という言葉とともに、オウンドメディアが国内で盛んに喧伝されている。
そうした状況は、ゼロ年代に相次いで社長や社員による企業ブログが盛んに開設されたときに似ているようにも個人的には感じる。
しかし、一部の先進的な企業を除けば、国内ではまだオウンドメディアにそれほど積極的ではないそうだ。

かつてのブログに比べ、オウンドメディアを開設する企業はまだそれほど多くないという。それは、オウンドメディアはそれなりのコストがかかるということだ。
ブログは、各プロバイダから無料で利用できるサービスがあるし、WordPressのようなオープンソースで無償で利用できるのようなものもある。
しかし、オウンドメディアの場合には、CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)が必要でその導入コストがかかること、また質の高いコンテンツを適宜供給できる人材の確保と社内体制づくりががどうしても必要なことがあげられる。

(3)分散型メディアについて
これは、質問するのをうっかりとしてしまった。
昨年からメディアでも頻繁に取り上げられるようになっている分散型メディアは、ポスト・ソーシャルメディアとして今年もっとも注目されるだろう。
ニュースメディアを軸とし、フェイスブックのはInstant Article、アップルのNews Standなど、世界的な大企業も相次いで専用アプリをリリースしたことで、さらに活発な動きが展開されるだろう。

国内でも、SmartNews(スマートニュース)、Gunosy(グノシー)、NewsPicks(ニューズピックス)、Antenna(アンテナ)、Vingow(ビンゴー)などが競っている。
また、分散型メディアの代表格で昨年末予定だったBuzzFeed日本版も、やや遅れてはいるようだが近々にはオープンを発表するだろう。

いずれにせよ、今後もコミュニケーション環境は、ソーシャルメディア、オウンドメディア、分散型メディアなどが三位一体となり、企業と消費者との情報の接点、リアルタイムによる対話のインタラクション構築方法が様々に多様化してさらに進化をしていくだろう。

私は、今日をCommunication Metamorphoses(コミュニケーション変容)と定義し、サステイナブルなCommunication Ecosystemをどのょうに構築できるのか、ということに広報戦略とその活動の成否がかかっていると判断している。

ほかにも、今年こそは"本当に"オンライン動画マーケティング活用が進むものと思うので、コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)にも注目が集まるだろう。CDNは、ウェブコンテンツ配信専用に最適化されたネットワーク環境のことで、分散配置したキャッシュサーバーによる高機能コンテンツ配信サービスだ。

HTMLファイルなどに比べ、サイズの大きい画像・動画などの大容量コンテンツを、ユーザーのもっとも近いところにあるデータのキャッシュにアクセスできるようにすることで、負荷分散と高速配信、サイト表示速度のパフォーマンスを改善するなど、ウェブプレゼンスを高めるためには不可欠とされている。

さらに、米国ではPR企業はトップや広報担当者のメディアトレーニングなども重要な業務であるが、我が国ではそこまでサポートできる会社となると数が限られる。しかし、プレゼン下手、スピーチ下手の日本企業にこそ必要だしむしろ需要も高いはずだ。

さて、「攻めの広報」とは、一言でいうならば、コミュニケーション戦略としての広報活動を、自社の企業(経営)戦略に組み込むみ、社会(人々)との接点作りに積極的に打って出るということ。
その際、ユーザー視点で、製品やサービス、企業、市場などに関することすべてをコンテンツ化し、伝えるべきメッセージを多種多様な手段を用いて持続的に届けていく心がけ(姿勢)なのだと実感した。

一般的には、大企業のように大勢の社員がいれば、社内にネタが至るところにたくさん転がっていてそれで困ることがないだろうと思うだろうが、実際にはむしろ大企業ほどネタについての悩みや相談が尽きないという。
これは、あるリリース配信会社の人から聞いた話しだ。

そういう点では、「攻めの広報」は、20世紀的な古い体質のままの大企業より、21世紀的なスタートアップやベンチャー企業の方が有利だし得意だ。
かれらは、ありとあらゆるものをネタ化し、様々なソーシャルテクノロジーの活用方法にも長けているからだ。
しかも、 社内を巻き込むの(社内広報)も実に巧みで、トップだけではなく社員もメディア(主にネット)へのプレゼンや露出などに馴染んでいることも強みで、ベンチャー企業というのは社員全員が広報感覚(マインド)の持ち主だ。


さて、今回もまた、散らかっていた私の頭の中の情報を整理・整頓、自分の考え方を確認することができた。加えて新たな気づきや示唆まで得ることができたことに心より感謝<(_ _)>。

ところで、もし、皆さまの友人などがセミナーや講演などをするときは是非とも参加することをおすすめしたい。
それというのも、友人だと普段はざっくばらんに話しもできるだろうし、改まって仕事内容についてきちんと説明を受けるようなこともない。しかし、知っているつもりでも、こうした場ではそうした友人の業務内容あるいは企業の製品やサービスについて詳しく知るための絶好の機会でもある。
さらにイベント後に懇親会があれば、同じテーマに興味のある参加者たちとの思いがけない出会い(セレンディピティ)があり、新たなネットワークも広がる。

だから、皆さまもそうしたイベントがあれば、参加してみるとよいだろう。きっと得ることがあるはずだ。
い、意外と短くもなかったか(;^O^;)。


(関連リンク)
▼青山スタートアップアクセラレーションセンター(ASAC)
http://acceleration.tokyo.jp/

▼Japan PR - The Hoffman Agency, Tokyo
http://www.hoffman.com/japan-pr-tokyo/

▼ITの新しい価値を模索する2016年、記者と広報・PRの関係は?
http://ascii.jp/elem/000/001/099/1099703/

▼分散型メディア、そこから無意識のメディアの時代
http://bit.ly/1J0elXa

▼自社メディアはもういらない? 米国への取材留学で見た分散型メディアの最前線
http://logmi.jp/83010

▼オウンドメディアはもういらない?ソーシャルメディアを活かした『中心のない分散型メディア』の未来
http://gaiax-socialmedialab.jp/distributed-media/419

▼アメリカで台頭する次世代のメディア「分散型メディア」とは?
http://netpr.jp/trend/19185/

▼メディアは「ウェブ」を疑い始めている
http://wired.jp/2016/01/06/media-started-doubting-the-web/


(おすすめブログ)
●21世紀的カフェ文化の地ーー「シリコンバレーにおける最新PRトレンド」に参加して
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/763.html

●「注目すべき海外先進メディアとトレンド最前戦」に参加してーーメディア"感覚"とその未来について思う
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/755.html

●The blog must go onーーブロガー支援の新しいプラットフォーム、SmartNewsとも連携、AMNの新サービス「reviews」(β)発表会に参加して
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/745.html

●【書評】『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(1)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1556667.html

●【書評】『パブリック リレーションズ〜戦略広報を実現するリレーションシップ マネジメント〜』ーー40年以上の実務経験による気づきと学び、研究成果、知見が網羅された書
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/773.html

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〓 The Blog Must Go On 〓(個人ブログ)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/

〓 PeraichiLista 〓(個人ポータルサイト)
http://peraichi.com/landingPages/view/macum
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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、そうした多様な社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会、Marketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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