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» 2016年3月 7日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 The Community for the rest of us(後編)ーー「コミュニティフォーラム2016」に参加して

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中編では、ハイテクと多様性がもたらす反作用としてのハイタッチによるコミュニティ志向、facebookに代表されるオンラインのグローバル化で軽やかなつながりが進展している一方、meetupやYelpのような地域密着でリアルによる強いつながりが求められて人気も高いこと。オンラインとリアルの融解が進んでいることでそれらに関わらず、居心地の良さを求めるほど不可避的に排除に作用してしまう可能性を秘めていることなどについて述べた。

さて、いよいよ最終稿の後編となった。これまでの2回のブログで書きつないできたことを私なりにまとめてみたい。


■コミュニティシップとリーダーシップ

ここのところよく耳にする言葉に「コミュニティシップ」がある。
これはミンツバーグ教授がさかんに提唱している考え方で、「優れた企業は「人的資源の集合体」ではなく「人間のコミュニティ」として機能している。」と語り、デジタル社会におけるリーダーシップにはそうしたコミュニティを醸成できる資質(素養)が求められているのであり、20世紀的な合理的かつ効率だけによる組織運営(マネジメンやノウハウ)ではや解決できないと断言している。

ここで誤解してはいけないことがある。
それは、リーダーシップ or コミュニティシップのような二者択一、あるいはリーダーシップ vs コミュニティシップなど二項対立軸ではないということだ。ミンツバーグ教授は、「優秀なリーダーは組織にコミュニティ意識を醸成し促進する」役割を担う人であると。

つまり、リーダーシップには、そうしたコミュニティを活性化させる多様な要素も含まれているのであり、そこにこそ着目すべきだとミンツバーグ教授は語っていると私は考えている。

マネジメントにおける機能や役割が、効率的な業務遂行、成果主義による労務管理など旧来型リーダーシップの評価基準や価値観より、コミュニティシップにはずっと幅広い素養と多彩なマネジメント能力(職能)を担わなければならない社会になっている。これはオンラインでも同様だ。

こうした時代の要請もあり、前編でも紹介した「コミュニティマネジャー」という役職は、もはや特別な集団や団体だけではなく一般企業を含めて社会のあらゆるの組織でコミュニティシップが必要とされている。
そうした人たちが世界中から集うカンファレンス「CMXサミット」が開催される理由はそこにある。

このコミュニティシップを一定の水準以上で維持するために不可欠なのが"企業文化の創出"だと私自身は考えている。
6年前、今日的企業文化のあるべき方向性、それをどのようにつくるのかという貴重なミートアップに参加した。

登壇者のひとり、Voyageグループ(当時ECナビ)取締役の青柳智士さんは、同社のCCO(Chief Culture Officer)という初めて知った役職にあった。青柳さんは、競争力の源泉は「人に尽きる」ということから、単に効率的に優れた組織運営手法だけでは不十分だと指摘としていた。

上記イベントは、『今日的な企業文化のあり方に思うーーBRIDGE 2010 Decemberに参加して』と題したブログとして残したのだが、今回あらためて読み返してみると当時は以下のように記している。

「企業文化は一朝一夕あるいは上意下達で醸成できるものではない。企業理念、コアバリューなどを自分たちで発見し、共有して継続的に育て上げるAttitude(心のあり方や姿勢)こそがその礎であり、社員個人と企業との濃密なコミュニケーションを通じたエンゲージメントこそが、これからの企業文化として求められているのだ」

これは後に知ったのだが、上記イベントの前年(09年)、MIT(マサチューセッツ工科大学)のグラント・マクラケンによる『Chief Culture Officer:How to Create a Living, Breathing Corporation』(残念だが未邦訳)という本がすでに刊行されていた。

前編で紹介した「3つの観点」こそ、コミュニティ独自の文化を創出するために三位一体で築き、それを担うのがコミュニティマネジャー(リーダー)なのだと感じる。
米国では、Starbucksなどを筆頭にChief Community Officerという職能がすでにあり、さらには、いくつかの企業では理念の共有・浸透によるマネジメントと人材育成を統括するChief Visionary Officer(CVO)という役職まで存在するほど。これはポジション的にはCEOよりうえで、我が国でいえば会長職に相当するものらしい。

そうした「ライフスタイル型企業」のひとつ、米Clif Bar社CEOのケビン・クリアリは、「社員が合わせなければならないものという認識があるので、企業文化は意識していないと言いました。それよりも、社員が自分らしくいてもいい、ありのままで受け入れられていると感じられる「企業コミュニティ」をつくることに力を入れています。」と語っている。

こうして考えてみると、多様性という言葉より、むしろ企業組織においては特にコミュニティシップという表現の方が理解しやすいように感じる。
社会全体はもとより、どのような小さな組織や集団であれ、異なる価値観を持つ人たちが集まっているのは当然だと考え、各々を尊重し受容しながらいかに所属しているコミュニティを円滑に運営(マネジメント)するのかということだ。

日本はグローバリゼーションの大きなうねりに否応なく巻き込まれた中で、米国の最新の経営戦略や組織運営の手法を導入してきた。
しかし、限界を露呈している米国型マネジメントではなく、最近ではそうしたMBAに代表される功利主義・効率重視の経営理論やマネジメント手法より日本のかつての家族的経営について、むしろ米国の経営者やマネジメント研究者・専門家、コンサルタントなど多くの人たちから肯定的コンテキストで語られている。
また、我が国においても同様に見直されつつあるようにも感じる。

合理化や効率化の過程で切り捨てられてきた福利厚生なども、むしろ米国のベンチャー企業などでは、積極的に推進することで社員に居心地のよい環境を提供しているし、それは私の知るかぎりでは国内のベンチャーにおいても同様だ。
より快適なオフィス環境、メンバー個々の事情やライフスタイルに合わせて柔軟に対応するワークススタイル(マネジメント)の導入など、先進的な取り組みが行われている。

これを米国ベンチャーのモノマネと考えたり、単なる温故知新と言ったりするのは間違いだ。
我が国のベンチャー企業は、高度経済成長期を知らない人たちが多く、そうした時代の企業における手厚く十分すぎる福利厚生の事情は関係ない。ただ、社員には企業という快適な"コミュニティ"の一員でいて欲しいし、生産性の高い仕事に心置きなく励んでくれればとの願いがあるだけだ。そのために考え創意工夫した"当たり前の結果"なのだと。

CS(Customer Satisfaction=顧客満足度)という言葉がある。
ソーシャルメディアが日常生活の現代社会では、これからはCS(Community Satisfaction)も必要とされるだろう。この場合、それは顧客(外)だけではなく従業員(内)も含め、外と内の双方が満足できる視点で構築されるべきなのはわざわざ述べるまでもないだろう。


■「公益資本主義」・「調和重視企業」と21世紀的価値観の探求

昨年大きな話題を呼んだピケティの『21世紀の資本』(みすず書房刊)に語らせるまでもなく、資本制による企業形態や市民社会や国民国家の発展と豊かさに貢献してきた一方、それは貧富格差の苗床となり、今日では広がりすぎたその格差社会は先進国・新興国を問わず、世界的に取り組まなければならない喫緊で大きな課題となっている。

私たちの経済や社会の仕組み(制度)とそれに基づく価値観は大転換に直面している。

「公益資本主義」という考え方がある。
これは、考古学研究者にしてスタンフォード大学経営学大学院出身という異色のベンチャーキャピタリストとして知られている原丈人が、その著書『21世紀の国富論』(13年増補版:平凡社刊)で提唱した概念で、米国型の株式資本主義または中国型の国家資本主義とも異なる、21世紀的なオルタナティブな資本主義企業のあり方として提示している。

この着想が、経済学や経済合理性に照らし合わせてどの程度の有用性や実効性があるのか、それを判断できるだけの知識も材料も私には乏しい。しかし、こうした考え方は先にも紹介したジャック・アタリが語っている「調和重視企業」にも通底するように感じられる。

Googleは、非営利団体向けのプログラムGoogle for Nonprofitsを2年前から提供している。この2月、facebookもNPO向け専用サイトFacebook for Social Goodを立ち上げるなど積極的にNPO支援策を打ち出している。国内でもサイボウズ、ChatWorkなども同様にNPO支援プログラムを提供している。
特に、CSR先進国のアメリカでは企業イメージの約40%以上は社会貢献活動で決まる、という記事をどこかで読んだことがある。

また、CIVIC TECH(シビックテック)のような考えに基づく新しいムーブメントもある。
これは、ICTを活用して市民の手で地域やコミュニティの課題を解決するための運動(活動)で、昨年には日本でもフォーラムが開催された。そうした企業の各プログラムやサービスなどは、これからさらに社会的な関心の高まりと共感を獲得していくだろう。

「グローカル」、これは「世界規模の視野で考え、地域視点で行動する(Think globally, act locally)」の造語である。グローバルな発想や知見を活かしながら、ローカル(地域)への視点や方法で課題に取り組むことだ。
これと同様、オンラインでは世界と広く弱くつながりながら、オフラインでは地域に密着した親密なコミュニケーション(コミュニティ)が求められている。

また、オンラインで日常で気軽につながることが可能な時代状況が、逆にオフラインでの出会いや直接コミュニケーションする重要さにあらためて気づいたともいえる。「書くこと」は「打つこと」が当たり前な時代にあって、かえって手書きの風合いや魅力が再認識され、その意義と価値があらためて見直されているのと同じようだ。

つまり、本質的な意味でのO2O(Online to Offline)というべきであって、オンライン情報接触者を実店舗への誘導や連携での消費行動を促すだけであれば、それは単なるクリック・アンド・モルタル(Click and Mortar、ちと表現が古いか^-^;)でしかない。

我が国では、組織戦略、マネジメント、マーケティングコミュニケーションなど、NPO法人で一般企業のように体系化・組織化され具体的なアプローチ方法を実践しているところはきわめて希だった。

しかし、ソーシャルテクノロジーが発達して日常的な手段となり、コミュニティの結びつきが求められている今だからこそ、その内部だけではなく、外部(顧客、支援者、共感者、メディアなど)も巻き込んで、コミュニケーション活動する姿勢で望むことが要請されているのだ。

クロージングセッションで、理念も共有して済ませるのではなく五感で体感し、共感してもらい体現されなければならないと。
そのために、各々団体とも様々な試行錯誤、多様な施策を組み合わせを行いながら不断にマネジメントのイノベーション推進している。

結局、任意によるコミュニティあるいは一般企業や組織かにかかわらず、それらが人から成り立って(支えられて)いる限りそれほど違いはない。
今回の登壇者の話しで印象に残った言葉がある。
それは「コミュニティは、道場にもそしてセイフティネットにもなる」という発言だった。

ここまで考えてみたとき、ネグリ&ハートにより提示された「マルチチュード」という考え方があらためて大きな意味と重みを持ってくるように個人的には感じている。

それというのも、これ自体はとても複雑な概念だ。共同体という"単一なもの"でありながら同時に性差、人種、文化、言語、宗教、異なる世界観(価値観)など特異や差異からなる多種多様性、つまり内的差異を包摂しつつ相互にコミュニケーションし<共>的行動を主体的に生み出すべき存在と位置づけられている。

今日、様々なレイヤー、多岐にわたるコミュニティ(市民)活動がグローバルに進行している。
しかし、(中編)でも述べたように、それは同時に同じ価値観だけのつながり以外は排除し、世界を分断する可能性や危険性をも常に内包している。
だからこそ、マルチチュードはたとえ困難でありながらも、そうした分断を超えるべき運動として展開されなくてはならないと。
これは「言うは易く行うは難し」の典型だ。人は頭では理解できても、感情のある生き物なのだから。

もちろん、こうした考え方は所詮は繰り返されてきたユートピアでしかない、と私たちは簡単に切り捨てることもできる。理想主義的な言動は、無慈悲な現実の前に幾度となく膝を屈っしてきた。「いわんやユートピアをや」というわけだ。
そうであっても、人はけっして諦めない動物だ。だから、人間だけが歴史と文化を築きながら発展してきたのだと思う。

今回のイベントに参加し、いろいろと頭の中を整理整頓しつつ最後まで書き終えてみると、これまで私が考えてきたこと、そして経験してきたことなどについて、あらためて復習や確認作業とすることができたとても有意義な日だった。

(了)


(関連リンク)
▼いま、リーダーシップより「コミュニティシップ」が重要である
http://www.dhbr.net/articles/-/3913

▼「米国型経営から本来の日本型経営へ回帰せよ。失われた20年を脱するコミュニティづくりの精神」(要無料登録)
http://diamond.jp/articles/-/33888

▼これからの世の中を変える5つの文化的トレンドと4つの意味
http://www.seojapan.com/blog/cultural-trends-and-meanings

▼いい会社を作るための企業文化とその育てかた
http://bit.ly/1QMrruk

▼消費者参加型コミュニティが企業の未来をつくる
http://diamond.jp/articles/-/82134

▼資生堂のマーケティング戦略の中に、コミュニティあり
http://diamond.jp/articles/-/80483

▼公益資本主義
http://bit.ly/1Q7jFFN

▼欧米に洗脳された日本の経営者 公益資本主義を説く原丈人氏に聞く
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20150218/277694/

▼原丈人氏・特別インタビュー 日本再生の鍵を担う「公益資本主義」
http://biglife21.com/society/6620/

▼米国企業の社会貢献活動ランキングとCSRに不可欠な3つのポイント
http://www.videoi.co.jp/data/column/2013/20130116.html

▼テクノロジーで社会を変える!日本におけるシビックテックの可能性を議論ーー「CIVIC TECH FORUM 2015」
https://codeiq.jp/magazine/2015/04/23346/


(おすすめブログ)
●トマ・ピケティ『21世紀の資本』刊行によせて(上)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1874748.html

●トマ・ピケティ『21世紀の資本』刊行によせて(下)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1875184.html

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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、そうした多様な社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会、Marketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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