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» 2016年8月25日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 PRの本質、それは「法人格」の統合コミュニケーション力のこと

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私的公開日誌@160825.01

一瞬、それは思わぬ返事のような印象を受けた。
私のキャリアはマーケティングコミュニケーション、それもPR(パブリックリレーションズ)だと伝えたとき、なかんずく広報・IR(インベスターリレーション)対応やメディアリレーション対策の専門家だと思われたことだ。

もっとも、一般的に考えればいわゆる広報業務のスペシャリストという判断は当然かつ妥当だろう。

私自身のキャリアを振り返ってみると、SP(セールスプロモーション)→広告・宣伝→PRの順になる。前2者までが20世紀中の広告代理店でマーケティングブレーン仕事(15年間)、3番目(15年間)が21世紀なってからのいくつかのベンチャー企業で積んできたキャリアだ。

■マーケティングを「定義」ではなく「本質」から考える

さて、マーケティングについてはむかしから一言で答えるの難しいといわれている。それは時代や市場環境によってとらえ方が常に変遷してきたからだ。
しかし、それは「定義」しようとするからで、その「本質」から考えれば変わっていないし、私は一言で答えられると確信している

私が語るのもおこがましいのだが、マーケティングとは時代や状況による定義にかかわりなく、「市場での競争優位性を確保するためのグランドデザイン(全体戦略)設計や構築」と答える。
そのために必要となる自社の強みを探索し、独自性の構築、維持、拡大を目指すのである。もちろん、これには企業戦略、事業戦略、製品戦略、コミュニケーション戦略などすべてが含まれるのは論を待たないだろう。

したがって、仮にSPや広告・宣伝などの企画案だとしても、プランの華美さに惑わされたり新奇さを追求するのではなく、きちんと一貫性ある戦略との整合性と必然性があるべきだと理解できる。

例えば、なにがしかのプロモーション企画、とくにイベント企画をする際でも、意味なくマーケッターの思いつきによる新奇性や奇抜さを狙った施策ではなく、企業戦略や事業戦略、商品戦略やブランドイメージなども勘案し、それら各種の戦略に基づいた案として設計しなければならない。

なぜならば、イベントはそれ自体の実施が目的ではなく、実施することの意義と価値や得たい成果のために存在するからだ。こうした視座をもったとき、企業戦略が幹でありPRをはじめとしたどのようなコミュニケーション施策といえども枝葉なのだということが理解できる。

したがって、企業全体のマーケティング戦略と乖離したり整合性のないプランでは意味がないと私自身は考えている。
もちろん、斬新さなどによる話題喚起だけが目的の場合(イベントやキャンペーンは多い)、これに限ることはないのはあらためて語るまでもないだろう。

そもそも、ありていにいえば、企業による社会貢献を含めたどのような良い施策といえどもホンネではすべてはこのマーケティング活動のためで、まさに「マーケティングは人の為ならず。誰あろう自社(利益)の為である」のは否めない真実なのだ。

最初のベンチャーでは、私のそうした思考方法と経験を知っている人だったこと、加えてマーケティング経験者がほかにいないということもあり、企業戦略から事業戦略、マーケティング戦略、PR戦略などすべてを担当しただけではなく、営業、提携業務、VC(ベンチャーキャピタル)との折衝など様々な貴重でありがたい経験をすることができた。

それら知見と経験が役に立ち、現在でもスタートアップなどの相談に応じるときも単にPR視点だけに限定せず、何を誰にどのように提供あるいは伝えることがもっとも有意義なのかを総合的に判断し、戦略性なども考慮してアドバイスするように心がけている。

私はマーケティング戦略だけではなく、どのような案件について応じる場合でも、その着想やプラン作りの根幹をなしているのはこうしたスタンスである。

もし、私にほかのマーケッターといささか異なっている点があるとすれば、それは私のマーケティング思考を形成するうえで多くの気づきや示唆を得たのは、大御所フィリップ・コトラーよりむしろジャック・トラウト、アル・ライズそしてマイケル・ポーターなどだったということに関係があるのかもしれない。

■依然として続くPRへの誤解

さて、かくいう私も実はPRについては最初は随分と誤解していた。
新奇さを求められ華やかさのイメージがあるSPや広告・宣伝に比べると、PRはどうしても"ついで扱い"や社内報作成、投資家(ステークホルダーなど)へのアピールという"控えめで地味な業務"という印象を拭えなかった。

PRについての考え方が一変したのは、私がベンチャー企業で仕事をするようになってからのこと。
ベンチャー企業は基本的に広告予算がないので、どうしてもマーケティングコミュニケーションにおいてはPRを中心にせざるをえないという実情があり、そうした中でPRの重要さやその価値に気づくことになる。

さらに、06年以降、Web2.0という言葉という言葉とともに、ブログ、SNS以外にも様々なCGM/UGC(いまでいうソーシャルメディア)が続々と登場し、またたくまに浸透するようになったことでマーケティング戦略に劇的な転換が訪れることになる。

あれから約10年
今日では、ほとんどのマーケティングコミュニケーション戦略において、アル・ライズがその著"The Fall of Advertising and The Rise of PR"の中で述べているように、"PR first, Advertising second."という考え方が定着している。

特に米国マーケティングコミュニケーション業界では、上記の言葉による戦略がすでに常識となりつつあり、また国内のいくつかの先進的な企業でもこうした考え方に基づいた施策を実施している。

ところで、昨年秋(15年9月)、アジャイルメディア・ネットワーク取締役CMOでブロガーでも著名な徳力さんの『真面目なPR業界の方々は「PR」という言葉を諦めて、「広報」に統一した方が良いのではなかろうか』の記事がネット上でずいぶんと喧しかったし頷くこともあり、今日でもやはり依然としてPRに対する誤解が払拭されたわけではいないのだなと感じる(もっともマーケティング全体がそうなのだが)。

わが国でPRが長年誤解を生んできた背景については、今年最初のブログ(【書評】『パブリック リレーションズ〜戦略広報を実現するリレーションシップ マネジメント〜』ーー40年以上の実務経験による気づきと学び、研究成果、知見が網羅された書)でも私見を述べた。

今日では、ブログ、SNS(facebookなど)、写真(Instagramなど)、動画(YouTubeなど)をはじめとして実に多種多様なソーシャルメディアが続々と登場し、加えてスマートフォンの日常化により、誰もが見たり聞いたり、考えたり感じたりしたことをいつでもどこでもその場で自由に情報発信でき共有される社会となっている。
そうした情報(コンテンツ)はすぐさまにネット空間でまたたくまに伝播し、瞬時に多くの人たちに共有されてしまう情報環境ということを意味している。

したがって、仮に地方の知名度の低い企業であっても、そうした情報や評判は国内だけではなく世界中で共有されてしまう時代なのだ。そうした多様な情報はネット上にいつまでも残り続け、後になっても検索すれば誰でも探し出せる。

■PRとは法人格の「統合コミュニケーション力」のこと

個人が人に接するとき、その人の言葉遣い、表情(しぐさ)や服装、所属、立場(地位)などを含めた物腰(人に接する心構え、姿勢や態度)で、第三者はそのひとの人柄を判断したりあるいはそれらが評判となって形成されていく。
そして、これらが備わっている人を認めるあるいは尊敬できれば、私たちはその人を人格者であると評する。中国の故事(だと記憶している)にいわく「才ある人より徳こそ将たる器」とは歴史的至言である。

法人格でもそれは変わらない。
企業として社会(様々な人々)に向き合うあるいは接する物腰すべてがPRとなる可能性があることに気づく。ましてや、大企業ともなればなおさら、その社会的影響力や関係者が多くなるので、まさに法人格の「ノーブレス・オブリージュ」(社会的地位の高いものにはそれにともなう責任がある)ということだ。

そういう意味では、企業トップ(代表者)のコミュニケーション力こそが最大の武器ともいえる。
あるいは、こうも言えるだろう。特にトップの発する情報のすべてが経営(戦略)でありプライオリティの高いPRそのものであると。
それは大企業、中堅・中小さらにはベンチャーなどその企業規模にはかかわりがないし、いわんやB to C、B to Bなども問わない。

消費者(顧客)、株主、取引先、社内(社員)や関連企業(子会社や下請けの従業員や家族)、地域社会など、企業活動に関わるすべての人たちはもちろんのこと、それ以外の人たち(競合をも含め)とのあらゆるリレーションシップにおいて、きちんとした言葉で企業自身を伝え、継続的に対話する姿勢や態度でGoodwillを醸成することがPRの本質である。

それは、ちょうど一個人が友人や知人に限らず、隣人や地域の人たち、あるいは初めての人にも接するときの態度と姿勢(心構え)と同様である。
ましてや、現在は"Sharing Economy"あるいは"Kinship Economy Era"(つながりによる経済時代)である(これについては別稿を予定)。

だからこそ、Communication Ecosystemという着想に基づく戦略設計や構築こそがますます急務かつ重要で、そのための人材育生・確保と組織体制づくりが課題なのだ。

21世紀の今日、それは多種多様なクリエイティビティ&コミュニケーションのためのフェスティバルへと変貌と進化を遂げている。
「国際クリエイティビティ・フェスティバル」(Cannes Lions International Festival of Creativity:通称カンヌ・ライオンズ)のことだ。それは、20世紀には「カンヌ国際広告祭」(Cannes Lions International Advertising Festival)と称された広告業界最大の国際フェスティバルだったが、11年からは「広告」の字をはずした。

もちろん、いまでも広告やマーケティングコミュニケーション業界のもっとも注目される世界最大のイベントではあるが、現在では義性を含んだクリエイティブかつイノベーティブな国際的イベントのような存在となっている。
それほどマーケティングコミュニケーション自体が創造性と革新性を求めている時代の証しでもあるのだ。

マーケティングコミュニケーションには、テクノロジーの進展により多種多様な目的と手段、それにともなう豊富でどのような施策を用意できるしいまでは実現も可能だろう。

ここまで書いてきてこう実感するのだ。
つまり、PRとは法人格が社会に対する総合的で魅力的なコミュニケーション力をいかに発揮できるのかという視点を持つことではないかと。

約半年ぶりの更新となったが、今回の件でマーケティングコミュニケーションそのものはもちろんこと、わが国でもまずはPRについての誤解から一歩進めてそろそろ今日的な理解として深めるべきなのではとあらためて感じた次第。

(関連リンク)
▼真面目なPR業界の方々は「PR」という言葉を諦めて、「広報」に統一した方が良いのではなかろうか
http://www.advertimes.com/20150908/article202760/

▼広告代理店主導の「PR=広報・宣伝」という誤解を解く
http://blog.goo.ne.jp/humon007/e/28d6a737723bba1874733095b033d16d

▼PRという言葉の本来の意味を改めて認識することで、ブランディングというものの根本的概念がわかってくる
http://www.imajina.com/library/detail.php?BlogID=324&date=&SearchCat=

▼広告とは違う広報(PR)の魅力
http://www.innovations-i.com/column/demi-pr/1.html

▼カンヌ・ライオンズで露呈した日本企業の「弱点」~いま世界が求めているのは「三方よし」のマインドだ
誰のため、何のためのビジネスか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49422

【おすすめブログ】
●ベンチャー企業のマーケティング担当者の心得に寄せて
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/527.html

●「攻めの広報」の"攻め"とはなにか。その3つのポイントーー「スタートアップのための攻めの広報戦略」に参加して
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/774.html

●21世紀的カフェ文化の地ーー「シリコンバレーにおける最新PRトレンド」に参加して
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/763.html

●【書評】『パブリック リレーションズ〜戦略広報を実現するリレーションシップ マネジメント〜』ーー40年以上の実務経験による気づきと学び、研究成果、知見が網羅された書
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/773.html

●【書評】『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(1)
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1556667.html

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プロフィール

梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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