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» 2016年10月13日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 GEEKなわたしたちのPR方法ーーオタク的精神やアンバサダーたちが企業に貢献する時代

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私的公開日誌@161013.01


もう5年以上も前(11年4月)、「Geek Meritocracy」(ギークメリトクラシー)という言葉を初めて耳にした。
これは、EvernoteのCEOであるPhil Libin(当時)が来日し、そのBlogger Meetupの招待に与ったとき彼自身の口から発せられたものだった(下記「おすすめブログ」参照)。

私はラジオが大好きなので、自宅でテレビ(CS放送のみ)を見ていないときにはいつも流している。
先日、TBSラジオ『安住紳一郎の日曜天国』(毎日曜日10:00〜11:55)のゲストコーナーに、「おろし金マニア」の飯田結太という人が登場した。もちろん初めて知る人である。
おろし金とは、あの大根おろしやわさびなどすり下ろすときに使う道具のことだ。


■探究心がもたらした自社の「最強PRパーソン」

その飯田さんは、大正元年創業という東京都台東区西浅草にある料理道具・調理器具の老舗専門店『飯田』の専務取締役だという。この地域は合羽橋(かっぱばし)といわれ、プロの調理道具・食器、食材など厨房用品にかかわるものなら何でも揃う専門店街として全国的にも有名で、軒を連ねる通りは合羽橋道具街と呼ばれ、毎年10月9日「道具の日」前後1週間開催される「かっぱ橋道具まつり」はすでに30年以上続いている

最初からおろし金に興味があったのではなく、お店に尋ねてきたあるお客さんの一言だったそうだ。こういうすり下ろしのできるおろし金はどれだろうかと聞かれたことがきっかけだったとのこと。
素材・形状などを調べるうちにそれによって大きく料理自体が変化し、料理する素材など応じて適宜使い分けるべきだと結論に至った。その「おろし金」へのこだわりと造詣が深い専門知識が評判を呼び、その知見を活かして様々なメディア(テレビ・雑誌など)にも登場するようになったそうだ。

「たかがおろし金、されどおろし金」というわけだが、これが侮れないのだ。
こうしたオタク的な知識が役に立ち、"おろしニスト"を自称して各種メディアでどのようにおろし金を選択するべきかについて解説し、同社のPRにも大いに貢献している。

最近では、そうした噂を聞きつけて来店する外国人客も多く訪れているようだ(いわゆるインバウンドですな)。
それというのも、海外では削ることはあっても「すり下ろす」ということがないとの話しだった。
言われてみれば、海外のインフォマーシャルによる調理器具の紹介を見ていても、多機能でも単機能の調理器具であっても削ることはあっても確かにすり下ろし専用器具を見たことがない。

そういう意味では、大根おろしやわさびの代表される「すり下ろす」というのは日本料理独自なのかもしれないとも思う。
ちなみに、「おろし金」は食感に応じて5種類あり、それらを料理や素材によって使い分けるべきなのだという話しだった。

これは趣味などでも同様であるが、こうした熱心な探究心や研究者魂が発揮されることで、それで得られた知見が製品・サービス・企業の認知拡大やPRに貢献する。この、"おろしニスト"飯田さんの例などは、まさしくオタク精神が発揮された典型例のように思う。

しかも、メールマガジンはもとより、ブログ、facebookページも開設するなど、ソーシャルメディアによる情報発信にも熱心だ。

もし、別の仕事やまったく無関係な職業であれば、"おろしニスト"はたんなる好事家でしかない
こうした顧客の一言、自分の仕事への探究心という幸運なセレンディピティが、自社にとっての「最強PRパーソン」の育生を促した典型例だろう。


■第三者(ブランド愛好者)をして語らしめる

これとは別に、ユーザー自信のブランドへの愛着や情熱を上手く引き出し、そうした人たちを伝道者(エバンジェリスト、アンバサダー)としてもてなすことで、それら顧客が企業(PR部門)になり代わって製品やサービスについてコミュニケーションを積極的に促してもらう例もある。

こうした典型例では、むかしからApple社がつとに知られている。Apple Uses Groupやエバンジェリストたちが、80年代からMacに触れる楽しさその魅力について情熱的に語ってきた歴史がある。
現在では、LEGO社がその代表格だ。

デンマークの玩具メーカーとして有名なLEGO社のアンバサダー制度(現Lego Users Group)は、ユーザー(ファン)が同社のPRパーソン的な役割を担っている。
このプログラムは、03年に導入され世界20カ国以上からユーザーの代表としてLEGO社から認定されるのはほんの数十人で、このうえもなく名誉なこととされている。

ユーザー参加によるコミュニティ活動(ユーザーグループ)も熱心で、そこでの情報交換とコミュニケーションが、ネット社会で共有されることでさらに様々な多くの人たちの目に触れるようになり、それが製品への関心や興味を喚起して購買やファン獲得へとつなげている。

しかも、そうしたLEGO製品の"普及"に貢献しているのは、同社からPRや単なる商品の販売促進をとくに頼まれたわけでもなく、さらにはそうした活動をどれほど励んでも金銭的な対価は一切発生していない
ひたすら、誰よりもレゴを愛しているユーザーがやむにやまれぬ製品への情熱と愛着とからである。
また、同社ではそうしたアンバサダーたちからの様々な情報や意見を傾聴することも手抜かりはなく、新製品開発にも反映させているのだ。

そうしたマーケティング戦略が功を奏し、90年代に売上の伸びが頭打ちとなり03年までは業績悪化による大幅赤字から劇的に復活したのである。

上記の2つのケースとも、好奇心、探究心、愛着など、いわゆるGeek(オタク)的な精神がもたらした賜である。


かつて(08〜10年ごろ)、私はこれまでの企業メディアでもなくソーシャルメディアとも異なる「第三のメディアコミュニケーション=Alternative Media Communication」という考え方をしていた(もちろん、今でもしているのだが)。LEGO社のケースなどは、まさにそうした代表例のように感じる。

また、最近では国内の先進的な企業では、ソーシャルメディアの公式ページより、多様な業界や企業でもこうしたWebコミュニティを開設する施策や導入が続々増えている「アンバサダープログラム」(例:ネスレなど)という着想やその活用例を考えてみると、これは視点を変えれば「21世紀的な新しい顧客の囲い込み戦略」になりつつある(Movement)ともはや言えるだろう。

囲い込み戦略とは、メーカーまたは小売企業がいまの顧客を永続的な顧客として固定客化・ファン化させ、購買頻度を高めたり、リピート購買、連続購買(買い増しなど)を促し、顧客を企業にとっての最大の資産化を図ることであり、それにより持続的かつ長期的に安定した売上拡大を狙うマーケティングコミュニケーション戦略である。

しかも、ソーシャルメディア時代の今日では、それはあくまでも顧客視点、顧客からの主体的な関与を引き出すような囲い込みであり、もはやそれは企業や団などが顧客に新製品情報の提供することに限らずコミュニケーションするには不可欠なものである。
こうした潮流は今後ますます強化され、さらにはテクノロジーの進展と恩恵も受けて間違いなく進化し続けていくだろう。

ただし、それは顧客に囲い込まれているという意識を感じさせずに提供されていることが重要で、すでに顧客に向けた「新しいサービス化現象」そのものへ進行しつつあるという意識(自覚)を持たざるをえないことを意味している。

私は、「Communication Ecosystemを構築することこそが、アンバサダープログラムのキーファクター」(参照:指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(序論))とすでに述べている。
まさに「アンバサダー的PRは人の為ならず。誰あろう己(企業)の為である」なのだ。

ところで、これは余談だが、今記事のタイトルは、私が好きなTV番組でオタク4人組を主人公にした米国シチュエーションコメディ『ビッグバン★セオリー:ギークなボクらの恋愛法則』に倣った。同番組は、すでにシーズン8(8年目)になるほど大人気である。
それにしても、毎回この番組の脚本やダイアログを担当している人は凄い!と感心する。

人には、誰にでも"なにがしか"のだわりや情熱を持って語れるコトやモノがあるだろう。たとえ、それがどのようにささやかなことであってもだ。
さて、皆さまも、友人や知人に情熱と愛着で熱く語れるコトやモノをなにかお持ちだろうか。


(関連リンク)

▼Phil Libin: We Live in a Geek Meritocracy | Stanford eCorner
http://ecorner.stanford.edu/videos/2804/We-Live-in-a-Geek-Meritocracy

▼「安住紳一郎の日曜天国」ゲストdeダバダ(ゲスト:おろし金マニア・飯田結太)
http://www.tbsradio.jp/72487

▼飯田屋がメディアで紹介されました!
http://www.kappa-iida.com/media.html

▼飯田結太かっぱ橋の飯田屋おろし金の世界!大根だけじゃ無いレモンも!?
http://8pipupe.net/4518.html#i-3

▼「おろし器」はなぜこんなに種類があるのか?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42301

▼社員に代わって顧客が顧客と対話!
玩具メーカー・レゴのアンバサダー制度
http://diamond.jp/articles/-/3461

▼レゴブログ:レゴユーザーズグループ(LUG)って何?
http://alegoremagazine.com/what-is-lug

▼レゴが世界一愛される玩具メーカーになった6つの理由
http://careersupli.jp/work/lego/

レゴが最近おもしろいのはいったいなんでなの?
http://wired.jp/2014/01/08/lego/

▼アンバサダープログラムアワード
http://agilemedia.jp/APA2016/about.html

▼アンバサダープログラムとは何か?検討する際に必ず議論のループが起きてしまう訳
https://www.advertimes.com/20160309/article219502/


【おすすめブログ】

●Evernote Japan Meetupに参加してーーPhil Libinが語ったネットビジネス5つの変化
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1440318.html

●「漏れ落ちた人々」とGeek Meritocracy社会〜 NTT R&Dフォーラム 2013 ブロガーミーティングに参加して
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/292.html

●指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(序論)
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/718.html

●指令!「愛」を獲得せよーーアンバサダーマーケティングは21世紀的な囲い込み戦略か(本論)
http://blog.marketing.itmedia.co.jp/macume/entry/720.html

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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、そうした多様な社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会、Marketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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