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» 2013年1月22日 更新

初心者が書く、初心者のためのCRMマーケティング 第3回 「CRMのマーケティングモデルを知る」〜知識層(顧客インサイト)編①〜

第3回目となる今回。いよいよ、CRMのマーケティングモデルにおける肝である"顧客インサイト(顧客理解・識別)"について解説していきます。これは第1回でお伝えしたピラミッドの2階層目。第2回のテーマであり、ピラミッドの1階層目に位置する「戦略層(顧客戦略)」では概念を中心にお伝えしましたが、今回は「そもそも、どのような形で顧客セグメンテーションを行えばいいのか?」という点に関して具体的に言及します。

「①顧客セグメンテーションの適正化」「②セグメント別の明確な位置づけと対応」「③顧客情報収集と顧客差別的活動のケイパビリティ強化」「④インサイトの強化と陳腐化の防止」といった4つのステップに分けて解説していきますが、少し(かなり?)長くなってしまうので今回は①のみを記載。②、③、④に関しては次回に譲ることにします。


①顧客セグメンテーションの適正化

ここで言う「適正化」とは、「使える(=利益を出せる)」という意味合いです。つまり、「使えるセグメンテーション」を行うことが目的。裏を返すと、「不適正」な顧客理解による「不適切」なセグメンテーションを行っても、期待した売上や利益向上は望めません。ここでは、セグメンテーションプロセスにおける"5つの罠" (下記の図参照)を例に出して話を進めていきます。

5つの罠.jpg
【1の罠(既存の顧客情報をうまく活用できない)】
これは特に大企業が陥りやすいと言われています。代表的な例としては「CS(顧客満足度)調査の未活用」と「顧客情報の洪水に流される」という2つが挙げられます。

1つ目に関しては、数十項目にわたる顧客アンケートで自社の提供価値や活動評価、満足度、重要度などを収集する膨大なCS調査資料が活用されず"眠れる顧客情報"の代表になってしまうパターン。問題は、調査結果に部や課、個人が一喜一憂することにあります。そうではなく、「"顧客規模×成長性"といった切り口で戦略的にセグメントした各カテゴリーにおいてどのような傾向が出ているか」など、全社的な戦略課題に基づいて実態を検証することが重要です。そして、その結果から将来の中核顧客となる成長企業を見出すことができれば、時間と労力をかけて調査した価値が出てきます。

2つ目に関しては、毎月(もしくは毎年)定期的に取っている数千〜数百万人分の顧客・ユーザー調査や、その他過去の膨大な資料を見て「だから、何だ」が分からないケースを指します。このような場合、例えば、よくある定型のフォーマットでセグメントしている"地域別×年齢別×性別"などの集計でいいのかを疑うべきです。実際、「休眠層の活性化を目標としていたが、休眠層・活性層に分けて分析した結果、活性層のロイヤルカスタマー化が有効だと判明。"来店頻度"で顧客セグメンテーションをした方が効果的な施策に繋がる」と結論を出した企業もあります。既存の顧客情報を組み合わせ、戦略に沿ってセグメンテーションをすることがファーストステップです。

【2の罠(意向情報に頼ってはまる)】
新商品・サービス開発などの過程において発生しやすい事象です。意向情報とは、「ああしたい」「こうしたい」という顧客の意向を指します。「こういう商品があったら買いたいと思いますか?/非常にそう思う・ややそう思う・買わない」といったアンケートを見たことがある方も多いのではないでしょうか。この意向情報に頼りすぎて失敗することは非常に多いので要注意。モンゴルの馬乳酒をモデルに作った『アミール』、カフェイン2倍の刺激がある『ジョルト・コーラ』などはアンケート結果と実売結果に大きな乖離があったと言われている商品です。

スティーブ・ジョブスの有名な言葉に、「製品をデザインすることはとても難しい。多くの場合、人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいのか分からないものだ」というものがあります。やはり、意向情報は曖昧なのです。では、やむを得ず意向情報を使う場合にはどうすればいいのでしょうか? ポイントは2つ。「強い意向のみを見る」と「行動情報から推察する」です。前者は5段階法であれば、「非常にそう思う」「まったくそう思わない」を見て、その他の「やや〜」「どちらとも言えない」を切り捨てます。後者は、「買いたい」や「したい」ではなく、過去の購買履歴などから「買ったことがある」「したことがある」という行動情報を基に分析します。感覚的で曖昧な「意向」をなるべく「真実」に近づける工夫をすることが重要です。

【3の罠(単純なセグメンテーション手法に頼る)】
第2回コラムでご紹介したように顧客のニーズが曖昧化している現代において特に注意するべきポイントです。多くの企業やマーケティング担当者は、個人顧客であれば「年齢」「職業」「性別」、法人顧客であれば「取引高」「シェア」など、昔ながらの顧客セグメント基準ですませているケースが多いのではないでしょうか。しかし、これだけでは不十分です。

セグメンテーションの難易度.jpg
セグメンテーション手法を考える段階においては、まず「どのような情報を基にするか」と「どのような手法で顧客をセグメントするか」の2つの軸で考えます。前者については、大きく属性情報、意向情報、行動情報。後者には主成分分析、数量化Ⅲ類、クラスター分析、多次元尺度構成法などさまざまあります。この2つの軸の組み合わせを複数パターン分析し、多様な情報の相関関係の中から顧客セグメンテーションを行うことで「真のニーズ」や「将来の中核顧客」を見つかり、適切にアプローチできる施策を打てる可能性が高まります。最近では、「データマイニング・ツール」や「データウェアハウス」など、情報の海からアウトプットの山を見つけてくれる情報解析ツールが安価で使いやすくなっています。

実際、ある大手百貨店ではこれまでにない大量の情報を組み合わせて分析したところ、「スポーツ用品売場で買い物をした50%の人が一ヶ月以内に女性用靴下を購入している」など、意外な事実を発見。顧客の購買行動パターンを参考にDM(ダイレクトメール)を打ったところ商品購入率が従来の10倍以上高まった事例もあります。人の先入観にとらわれず、解析ツールと手法を存分に活用することが大切なのだと分かる事例です。

【4の罠(セグメンテーションが打ち手に繋がらない)】
華麗なクラスター分析から顧客セグメントを行っても、それが実際に現場で使える「打ち手」でなければただの学術論文であり、お遊びでしかありません。企業活動の最前線にいる営業や店頭販売員が自分の担当する顧客はどこにセグメントされているのかが簡単に分かること(顧客の判別容易性)、そしてそのセグメントに対して適切かつ差別的な対応が可能なこと(セグメントの個別対応可能性)の2つの側面を満たしていることが必要となります。

また、本来的に差別化しにくいものを差別しろというセグメンテーションも意味がありません。例えば、顧客がグループで来る飲食店や遊園地のような業態で、個人タイプ別の対応をしろと言われて難しい。自社の持つ、もしくは持ちうるケイパビリティ(capability:企業が全体として持つ組織的な能力。あるいは、その企業が得意とする組織的な能力)を考えた上で顧客セグメントを決める必要があります。

【5の罠(セグメンテーションの評価が現状収益性だけ)】
顧客セグメンテーション策定における最後の関門。一言で言うと「金に目が眩んで近視眼的になっていないか」という内容です。旧来のセグメンテーションでは「儲かる客を探す」「今年の客を探す」を大前提としていました。CRM観点で大切なポイントは、「今儲けさせてくれる顧客だけでなく、育ってくれそうな顧客が企業の永続的成長のために欠かせない重要な顧客である」という前提に立つことです。

フィールドマトリックス図.jpg
右図は前述したCRM観点を直接的に表現して分類したマトリックスです。「金の成る木」は大事に守るべきだが、要求レベルが低いということは価格競争になる場合が多く、儲からない、もしくは大赤字先になる可能性すら秘めています。「金の苗木」は、金の成る木になる前にうまく食い込んでおけば価格競争に巻き込まれない優良顧客になります。次に、顧客規模は大きいが、要求レベルが高い困った顧客である「知恵の成る木」。要求レベルが高いということは、何か他の人や会社と違うことを目指しているからであり、その背景を理解して徹底的に向き合うことで、自社の発展に大きく寄与する余地があります。納期や品質が厳しい顧客に正面から向き合ったデンソーや、返品してくる口うるさい顧客に徹底して合わせていった米国の百貨店ノードストロームを見てみるとこの顧客カテゴリーの重要性が分かります。最後は「実験農場」。まともに全部対応していたら身がもたないし儲かりません。しかし、ここにこそ真の未来的知恵や成長の素が埋まっているのです。顧客は多く存在するし金額的な傷も浅い。むしろ、恐れるべきは失敗しないこと。全体の資源活動の一定量を常に戦略的このカテゴリーにあてることは、健全な企業活動として必要なことだと思われます。

今回、長文にも関わらず読み進めていただきありがとうございました。より詳しい事例は、『CRM―顧客はそこにいる(村山徹/三谷宏治+アクセンチュア著)』を参考にしていただければと思います。

冒頭でもお伝えしましたが、「顧客との関係性を適切に保ち発展させる」というCRMの根本的なミッションを成し遂げるためには、"顧客インサイト(顧客理解・識別)"が肝となります。次回は、残る「②セグメント別の明確な位置づけと対応」「③顧客情報収集と顧客差別的活動のケイパビリティ強化」「④インサイトの強化と陳腐化の防止」についてお伝えしていきます。

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プロフィール

長島 威年

長島 威年

1983年生まれ。7歳までアメリカ在住。2006年、株式会社インテリジェンス入社。求人原稿のライター、ディレクターを経験。2009年、編集部にて企画、取材、執筆を担当。その後、リアルイベントを展開するDODAアカデミー立ち上げ。現在、CRMマーケティング担当。

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