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» 2012年12月18日 更新

マーケティングコンサルタント青葉哲郎の「成功のカギはマーケティング・イノベーションにあり。」 米国食品メーカーとマーケティング事情最前線 ~変わりゆく消費者、対応に追われる食品メーカー~

米国の食品メーカーのマーケティングが大きく変わりつつある。先日米国のある記事()でも紹介されていたので、このテーマについて話したいと思う。

米国では、家庭の家族構成、そして消費者を取り巻く環境や行動が大きく変化したことにより、従来のマーケティングでは食品の売り上げは伸びなくなった。Food Marketing Instituteの調査によると、米国のスーパーで売られている品目数の平均は、1977年の10,425点から現在の38,000点と膨れ上がっている。残念ながら、多くの商品は小売店で埋没する運命にある。

米国で何が起こっているのか。それを知るために、まず米国の「ベビーブーマー」と「ミレニアルズ」という世代について説明をしていきたい。

※今回の話は、し烈な競争に直面する日本メーカーのマーケティング活動にも役に立つ内容だと思います。私はマーケッターとして、正しいモノづくりをされるメーカーの発展を願っていますので、もし、このブログをご覧の皆様の中に、メーカーやマーケティング業務に携わっている方がいらっしゃれば、この話をご紹介いただければ幸いです。

■ベビーブーマーとミレニアルズ、カギとなる2つの世代

米国の「ベビーブーマー」とは第2次世界大戦の終焉頃から60年代前半に生まれた人々(現在50代前半)を指し、日本の団塊世代より年齢幅が広い。この世代は馴染みの店でお気に入りのブランドを買うという動向が強く、マーケターにとっては最良のターゲットだった。ベビーブーマーは、お気に入りのブランドがあり、ブランドに忠実といえるが、この世代は高齢化しており、子どもたちが巣立っていった家庭も多く、かつてよりも少ない量の食品を求めているそうだ。

一方、「ミレニアルズ」は、ジェネレーションYとも呼ばれ、2000年前後に成人を迎えた人々(現在30代前半)を指す。この世代はインターネットを初めとしたデジタル化時代に育ったことから、今までと違う価値観を持っているとされている。ミレニアルズは、比較的小さなブランドのものを買い、目新しいもの、新しいジャンルの食品を求めてどこにでも足を運ぶという。インターネットと共に育ったこともあり、ソーシャルメディア等での情報収集にも長けている。

今、この2つの世代に挟まれ、名の知れたブランドやスーパーマットは、新しい対策を迫られているという。

■米国の食品消費から学ぶ~5つのトレンド

消費者を取り巻く環境やニーズの変化を踏まえて、食品分野のマーケティングに取り組む際に今日注意したいことは以下の5つ。

~5つのトレンド~

  1. 商品の利便性とは何か見直し、再定義すること
  2. 中間層がいなくなり、こだわり派と低価格志向派に両極化してきていること
  3. 30代向けの新しい世代に向けた新商品開発が必要
  4. シンプル・ナチュラル志向の高まりを受けて、どのように対応すべきか
  5. グルメ食品などの中小ブランドの市場シェアが増加していく

これから、その1つ1つを説明していきたいと思う。

1. 商品の利便性とは何か見直し、再定義すること

ここで、米国における2001年対2011年の食品飲料消費量の変化を見てみよう。

img01.png
http://adage.com/article/news/marketers-adapt-rapidly-changing-world-american-eating/238222/

左側は、消費量が増加した品目、右側は減少した品目を指す。左側の増加した品目を見ると、ヨーグルト、バー、チップス、ナッツなどそのまま食べることができるものが多い。右側の減少した品目を見ると、豆、コーン、肉などの手をかけて食べる品目が減少しているのがわかる。現代の米国民はより健康的なもの、便利なもの、調理をせずに手にしてすぐに食べられるものを求めている。

1960年代には冷凍食品やケーキミックス等が登場し、食品の売上が増大したそうだが、約50年経った今、消費者は従来の利便性では物足りない。この傾向に対し、様々なブランドが新しい利便性を考慮した新商品を打ち出している。例えばケロッグ社は今年、シロップをかけずに食べられる新しいワッフル"Eggo Wafflers"を販売し始めた。この商品はトーストするだけで、既にシロップをかけたような味になっているため、手間が省けるし、テーブルに座って食べなくてもよいため時間の節約になる。

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http://www.kelloggs.com/en_US/kelloggs-eggo-wafflers-brown-sugar-cinnamon-roll.html#prevpoint

2. 中間層がいなくなり、こだわり派と低価格志向派に両極化してきていること

米国では、食習慣が社会的地位を示すと言われるようになっており、かつてないほど、食品をめぐり人々が分裂しているという。そして、これまでの市場の中心をなした中間市場が徐々に消えていっている。中間層が消える一方で、年収が$100,000(約800万円)を超える「フードエリート」と呼ばれる層が生まれ、彼らはグルメ雑誌を熟読し、大量生産品を否定し、手作りやナチュラルを求めている。その対極には、米国人口の84%を占めるという「フードリアリスト」と呼ばれる層がおり、このフードリアリストは、更なるお得商品を求めている。

これは何を意味するのか。食品メーカーは、既存ブランドをどのように発展させていくかが大変重要となっている。これまでと同様に、既存ブランドで同じ体験を提供していても、どちらの客層にも共感してもらえないのだ。

ブランド並びに商品戦略の例として、クラフトフーズ・グループは「good, better, best」というアプローチを用いている。チーズ味のマカロニ製品"Velveeta Shells And Cheese"という商品を、手軽に飲食できるカップ入りは99セント、箱入りは1.99ドル、調理用パッケージは3.49ドルと、異なるニーズに対応するために内容と値段を変更している。

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http://www.kraftbrands.com/velveeta/Product.aspx

同社は米国における100円ショップのような1ドルストア店頭に置くエコノミーチーズを販売する一方、グルメ商品の広告にも力をいれている。

3. 30代向けの新しい世代に向けた新商品開発が必要

食習慣が比較的予想し易かったベビーブーマーの食品に対する支出が減少していく中、これからはミレニアルズ層をいかに獲得するかがカギとなる。しかし、この世代に対し大手ブランドや小売店は苦戦している。というのも、この世代は、バラエティーを求める一方でナチュラルなものを望み、また利便性も追求するというからだ。伝統的な食品メーカーもゼロから商品作りをしている。例えばキャンベル・スープ・カンパニーは、従来の缶入りスープとは異なるレトルトのスープを販売し始め、そのフレーバーもモロッコ風チキンとヒヨコ豆のスープなど、新しいものを取り入れている。

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http://www.campbellsgo.com/?pd=yes#!/

また、ペプシコも"Frito Lay"ブランドにエスニック風味を加えるほか、米国では誰もが知っているであろうチップスブランドの"Tostitos"も、テイストがより洗練された客層向けに"Tostitos Artisan"を発売し、ミレニアルズ世代に対応している。アルチザン(Artisan)とは、職人といった意味で、右の赤いパッケージの方がこだわりを感じさせ、ナチュラルの表記もある。値段は高めだが、やはりおいしそうな印象を与えてくれる。

img05.pngimg06.png
左:従来のチップス(2.5ドル程度)、右:新商品チップス(5ドル程度)
http://www.fritolay.com/our-snacks/doritos-jacked-smoky-chipotle-bbq.html

4. シンプル・ナチュラル志向の高まりを受けて、どのように対応すべきか

現代の消費者は、その商品の何が体に良いのかがわかりやすい商品を購入しているという。このニーズに対応するために、原料の数を減らしたり、原料に果物と野菜を使用したり、タンパク質の量を表示したりする。そして最近の新製品に多く見られるのは「オーガニック」ではなく「ナチュラル」だという。オーガニック=高価というイメージが消費者に抱かれているからだ。

ケロッグは「start simple, start right」というキャンペーンを行い、"Raisin Bran"等の売れ筋シリアルを「僅か7つの原料」と宣伝している。ポテトチップのブランド"Lay's"も「3つのシンプルな原料(じゃがいも、塩、油)」を売りにしている。ヨーグルトブランドの"Yoplait" も「Simplait」という6つのシンプルな原料から作った商品を宣伝し、Haagen-Dazsも「Five」というたった5つの原料からできているアイスクリームブランドを打ち上げた。怪しい添加物や調味料などは、あまり好まれない。原材料が単純でわかりやすい、シンプルな製品が喜ばれている。

img07.pnghttp://www.yoplait.com/products/yoplait-simplait

img08.pngimg09.pngimg10.pngimg11.png
http://www.haagendazs.com/Products/

5. グルメ食品などを扱う中小ブランドの市場シェアが増加していく

大企業や名の知れたブランドがマーケットシェアの多くを占めていることには変わりはないが、中小ブランドのシェアが増加している。National Association for the Specialty Food Trade によるとグルメ食品の売上は2009年より昨年までで9.2%伸び、$75.14 billionに達したという。また、Brewers Associationによると地ビールの売上も全ビール売上の9%を占めている。単に規模が大きいだけのメーカーよりも、きちんとしたモノづくりしている企業の方が支持され始めている。

■まとめ~変化をチャンスにできるかどうか

以上、これまで見てきたように、米国消費者のニーズは多様化している。日本においても同様で、日々消費者は賢くなっている。消費者は、安心できる商品であるのかどうか、健康によいのかどうか、価格は適切なのかなど、価値を見極めて購入している。利便性を追求した商品、たとえば時間短縮できるようなものについては、価値を実感しており、その人気は高い。

一方、低価格商品へのニーズは底堅く、大手小売業のプライベートブランド売り場の占有率や販売額は増加し続けている。セブン&アイは、「セブンプレミアム」の売上高を2015年度に1兆円まで引き上げると発表、オリジナル商品で3兆円を目標にしている。

世代、収入などが異なる消費者を理解しながら、正しく製品戦略に素早く反映していくことが求められている。これからは、どんなに有名な企業でも、ニーズに対応できない企業は淘汰されるだろうし、不況下であってもニーズに対応できる企業は中小であっても成長していくことだろう。変化をチャンスにできるかどうか、メーカーのマーケティング力が今、試されている。

ITmediaオルタナティブブログ「青葉哲郎のスマイル航海日誌」

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プロフィール

マーケティングコンサルティング会社 サイコス 青葉哲郎

マーケティングコンサルティング会社 サイコス 青葉哲郎

1971年生まれ。イオン、マイクロソフト、インテリジェンス、リクルートエージェント、リクルートを経て、2009年11月マーケティングコンサルティングのサイコス株式会社を設立。マーケティングに関する総合コンサルティングを提供し、広告販売などは行わず、マーケティング部門や経営効率化支援に特化して広告主側に立った助言を行っている。

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