ニュース
» 2015年5月27日 更新

WebアナリストのUX戦略思考 ビジネス戦略を再構築するためのフレームワーク:UX戦略ブループリント(UX Strategy Blueprint)

UXデザインや情報アーキテクチャ分野において、多くの実績を持つジム・カールバック氏に協力し、「UX Strategy Blueprint」を翻訳しました。彼の知見はもちろんのこと、戦略に関する研究、ワークショップでの実践をもとに、UX戦略を6つの側面でまとめるシートとその活用法を提案しています。

UX Strategy Blueprint

【日本語版】UX戦略ブループリントを閲覧・ダウンロードする

どうやって首尾一貫したUX戦略を生み出すのか。難しい問題です。

この問題のひとつは、「戦略」という用語の曖昧さから来ています。多くの人は、詳細な計画を立てることによってその意味をぼかしています。戦略とは、市場調査や競合比較などの詳細な調査を行うことだと考える人もいます。あるいは、展望や野心と混同している人もいます。

これらは、いずれも戦略ではありません。

戦略とは、状況に応じて重要な課題を明らかにし、望んだ結果のためにそれを克服する方法について工夫することです。これには、取り上げた活動とその原因をセットにして捉える必要があり、目に見えるようにすることが望ましいです。

分析と計画は、戦略を構築するプロセスにおいて必要なものですが、戦略の中核ではありません。戦略への道筋を分析することはできませんし、データから答えが魔法のように出てくることもありません。詳細なロードマップを描いたからといって、それらから成る活動の根拠を得られるわけではありません。それは戦略から得られるのであり、意思決定を導く意図的なロジックによって分析と計画が結びつくのです。

UX戦略ブループリントは、UX戦略の明確化を助けるシンプルなツールです。あなたはこのテンプレートの構成を変えることなく、自在に使うことができます。必要なのは、私を信じることです。

戦略は階層的であることに留意してください。滝のように上から下へ流れていきます。効果的なUX戦略は、より上流から組み立てられます。

企業、製品、チームや個人のような戦略のレベルに関係なく、戦略の核心は、以下に概説する要素の組み合わせに依存しています。この枠組みを使用すると、一貫したUX戦略を明らかにできるだけでなく、上位戦略に沿ってそれを配置することができます。

UX戦略の要素

UX戦略ブループリントの構成は、戦略領域における既存の研究に基づいています。まず、ヘンリー・ミンツバーグの代表的な著書である「戦略サファリ」に記載されている、戦略の5Pを用いています。それらに、A・G・ラフリーとロジャー・マーティンによる近年の書籍「勝つために戦う」から、戦略における5つの選択を組み合わせています(両書は大変おすすめです)。

これら2つのフレームワークの交差点から、共通する6つの側面を得ることができます。それぞれは、UX戦略を生成するために組み立てられたブループリントにおいて、一枚にまとめられます。6要素の各見出しの下には、目安になる質問と必要になる情報の例が書いてあります。

UX戦略ブループリントの各要素を解釈する方法は、次のとおりです。

  1. 挑戦(CHALLENGES):戦略には、挑戦すべき課題が伴います。地点AからBに進むための強い思いです。それを成し遂げるためのハードルは何でしょうか。望んだ結果を得るために克服しなければならない反力は何でしょうか。例えばユーザエクスペリエンスデザインにおいて、いくつかのウェブプロパティを統合するとき、それらの整合性に関する課題に直面するかもしれません。または深刻なユーザビリティの問題や、劣悪なイメージに取り組むことになるかもしれません。つまり、戦略とは問題解決なのです。あなたはどのような問題を解決しようとしていますか。顧客とユーザに焦点を当てるべきですが、内部的な課題をリストアップしても構いません。

  2. 希望(ASPIRATIONS):最終的に、どのような経験をしてもらいたいですか。「一貫した」のような一般目標の範囲を超えて、より高い望みのために努力してください。例えば、特定のユーザエクスペリエンスを通して自社サービスを差別化したいのであれば、もっと熱心になるでしょう。さらに重要なのは、あなたの顧客の仕事や日常生活にどのような影響を与えるのかを考えることです。ソリューションを変えることによって、彼らは何ができるようになり、最終的にどう感じるのでしょうか。あなたの希望は、チーム内に浸透させるべきです。

  3. 注力分野(FOCUS AREAS):戦略とは、トレードオフを探ることでもあります。注力分野を明らかにすることで、最も重要なことに集中できるようになります。これは、リストに書いたこと以外をまったく無視するということではありません。そこに記載した要素は、より優先順位が高いということです。簡単かつ現実的な方法で、下記5つの項目について、あなたの主な焦点を示してください。

    • ユーザ - 誰があなたのソリューションを利用しますか。もし複数のペルソナがある場合、この戦略を成功させるために最も妥当なものをリストアップしてください。

    • 地域 - 対象の国、言語、文化にはどのようなものがありますか。

    • サービス - どのような製品、サービス、プラットフォーム、そしてテクノロジーが戦略に含まれていますか。含まれていないものは範囲から外してください。

    • 利用例 - 高いレベルで、利用するときの重要なシナリオを示してください。例えばeコマースでは、商品の探索、購入のプロセス、またはその両方に焦点を当てるでしょうか。

    • UXの領域 - UXのどの領域が、最も関係するのでしょうか。情報アーキテクチャ、インタラクションデザイン、ビジュアルデザイン、コンテンツ戦略やブランディングのような側面を取り上げてください。同時にコントロール、学習や発見のしやすさなどのユーザビリティ属性も加えてください。

  4. 基本方針(GUIDING PRINCIPLES):これはおそらく、最も扱いにくく重要な部分です。ビジネス戦略では、基本方針は、競合他社にどのように勝つのかを表します。UX戦略では、基本方針は課題を乗り越える、そして直面している問題を解決するために用いるアプローチです。それは「モバイルファースト」のような活動の定型表現を含みますが、より具体的にしてみましょう。あなたの望みに到達するには、どんな良いルールが必要でしょうか。同じ目標に向かってデザインチームと実行していくために、どのようなスローガンが必要でしょうか。覚えておくことは、戦略は行動に一貫性をもたらすということです。皆と同じ方向へ進んでいくために、あなたはどのような選択をしますか。

  5. 活動(ACTIVITIES):戦略を実行してあなたの望みを達成するために、どのようなUX活動が必要とされるでしょうか。これは、ユーザ調査、コンセプト開発、スケッチ、画面デザイン、プロトタイプ、テスト、そして制作パターンやガイドラインのようなものも含みます。チームと能力開発についても、ここに記述することができます。この部分は、プロジェクト計画のように解釈すべきではありません。むしろ、あなたの希望にたどり着くために必要な活動のリストになります。戦略を実行するために、新たな能力が必要になる可能性も念頭に置いておいてください。それはつまり、戦略とは既存のスキルやリソースを再構成するものではなく、あなたが成功するためのチャンスを最大化する手段ということです。

  6. 測定(MEASUREMENTS):戦略が軌道に乗っているかどうかを、どのように理解するのでしょうか。進行状況と成功をどう判断するのでしょうか。多くの場合は基準と比較が必要であり、例えば施策の開始前後に、ユーザエクスペリエンス(例えば満足度)について測定することを意味します。UXが、ビジネスに与える良い影響について確認できる指標を見つけるようにしてください。「合理化チェックによって、売り上げを5%増加させる」や、「オンラインでより良いヘルプを提供して、サポートセンターへの電話を15%減少させる」などの具体的な目標を立ててください。

これら6つの要素で扱う情報には、おそらく重なり合う部分があるでしょう。それはむしろ良いことであり、戦略とは逆境を乗り越え、望まれる位置に達するための選択による連鎖の組み合わせなのです。しかし、言葉を直接的に繰り返すのは避けるようにしてください。全体的なロジックとしては、筋の通ったストーリーを作成する必要があります。

UX戦略ブループリントの活用

UX戦略の構築は、創造的な努力です。色々な選択肢を試して、「もしこうしたら?」「どれが真実だろうか?」と問いかけてください。UX戦略ブループリントでは、初めのうちから代替案を試すことにリスクはありません。物事を関連づけ、付箋を移動していき、アイデアを再考し、付箋をくしゃくしゃに丸め、そしてまた一からやり直してみてください。戦略はデザインするものなのです。

「1. 挑戦」と「2. 希望」から始めてみるのが一番です。そのあとに、色々な領域にあたってみると良いでしょう。そうすることであなたは、一度にすべての要素を検討して戦略的な選択の関係を明らかにします。

UX戦略ブループリントを使用できる状況がいくつかあります。

  • ブリーフィング:ブループリントを印刷して、それについて互いに意見を出し合いましょう。ブループリントは質問すべきことのチェックリストとして最適です。メモを簡潔にすることで、一目で分かるようになるでしょう。

  • ワークショップ:キックオフミーティングや戦略会議では、ブループリントをポスターサイズで掲示し、チームごとに付箋を使って書き込みましょう。これにより議論の筋道を立て、作業の的を絞り込み、合意形成を導くことができます。

  • リファレンス:完成したブループリントを社内に掲示し、すぐに参照できるようにしましょう。そうすることで、いつでもあなた達の戦略が目に入ります。

UX戦略ブループリントは、オンラインでも使用できます。下の対応版には入力欄があり、デジタル形式で各要素に書き出すことができます。また、コラボレーションツール(例えばMural.lyTUZZit.com)内の背景としてアップロードし、バーチャル付箋を貼っていくのも良いでしょう。

【日本語版】入力欄付きUX戦略ブループリント

すべての要素が合意されたら、戦略を統合していきます。簡潔で出来の良い戦略は、2ページ程度の長さにすべきです。相手に合わせて説明手段を変え、プレゼンテーション、文書、視覚情報も必要に応じて作成しましょう。

できるだけ頻繁に戦略を共有しましょう。コミュニケーションが取りにくければ、戦略スライドを印刷したり、壁に貼ったり、打ち合わせの始めに見せたりしてください。またはワイヤーフレーム内のダミーテキストとして、それを挿入する手もあります。これらを繰り返すのです。

戦略開発は工芸のようなもので、探索と選択だけでなくシステム思考も必要とします。UX戦略ブループリントは、全体の関連性を読み取りやすくします。それを活用することで、抽象的なコンセプトを明瞭にすることができ、戦略を簡潔に表すことができるでしょう。

ジム・カールバックのプロフィール写真

ジム・カールバック(Jim Kalbach

ジムは、実践者そして優れた指導者として活動するUXデザイナーである。シトリックスのUXデザインを主導し、過去にはベルリンのUSEEDS、レクシスネクシス、レイザーフィッシュでのデザイン経験を持つ。現在彼は、書籍「Mapping Experiences」の執筆にも取り組んでいる。

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

Loading

プロフィール

若狹 修

若狹 修

ウェブ解析を軸としたKPI設計、マーケティング施策、コンテンツ改善のコンサルティングに従事。現在、原点である人間工学を基に、ユーザ調査など様々な分野のアプローチを相互補完的に活かした研究と提案を行っている。

「マーケター通信」購読一覧