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» 2013年2月25日 更新

ちびクロの細かすぎて伝わらないネットサービスの話 日本で初めてインターネットのビジネスモデルを特許取得したエムスリー エムスリー研究第1弾ビジネスモデル編


こんにちは、黒須敏行です。

告知ですが今度スクーというオンラインで授業を受けられるサービスで話すことになりました。目的はそもそもSEO対策をすべきかどうかを判断できるようになるというものです。SEO対策はウェブマーケティング施策の一つの手段なので、そこまで頑張る必要もなければ場合によってはやらなくていい場合もあります。

たくさんの書籍やブログがSEOの方法について紹介をしていますが、マーケティングの手段として語られている情報はそこまで多くありません。そんな状況のなかSEO対策を今後着手すべきかどうかがわからない。。という悩みを持ってる方に聞いて欲しいと考えています。生放送の授業のため興味のある方は3月5日(火)21:00~22:00に是非ともご参加ください。

※講座は無料です

それでは本題に入りましょう!

2012年2月に日経新聞社が、売上500億円以下の企業を対象に資本効率の高さや成長性などから企業の競争力を測った「NEXT50上場中堅企業ランキング」を発表しました。1位はクックパッド2位にカカクコムと過去にこの場所で紹介してきた企業がランクインしています。

7位にエムスリーという会社がランクインしていましたが、この会社を御存知でしょうか?この会社もリブセンス、クックパッドのように高い営業利益率を誇る優良企業です。2000年に設立されわずか4年で上場をしています。

エムスリーの特徴はビジネスモデルです。世界でも例を見ないビジネスモデルを採用しており、彼らはこのビジネスモデル特許申請をしており認可を受けています。インターネットを使ったビジネスモデルに特許が認められたのはエムスリーが国内では初の事例です。今回はその日本発唯一無二のビジネスモデルを紹介します。

章立てとしては
・エムスリーの事業ミッション
・収益力の推進力「MR君」
・エムスリーの強み
の3本立てで進めて参ります。これを読んでもらうことで、ほんとに儲かるビジネスに必要なことは何なのかを理解してもらうことがゴールです。

それではひとつずつ見て行きましょう。


■エムスリーの事業ミッション

エムスリーの事業ミッションはインターネットを使って不要な医療コストをカットすることです。医療コストのなかでも製薬会社のMRのコストカットをすることでこれまで成長してきました。MRというのはMedical Representivesの略で医療メーカーで医師や病院向けに営業を行う人達のことです。薬というのは開発費はべらぼうにかかりますが、一度作ってしまえば利益率が高いものが多く、MRを増やし売上を増やすというのが製薬会社の一般的なビジネスモデルです。

ただし医師達への営業コストがバカになりません。私の友人が医師をやっていますが、彼にヒアリングしたところ大学時代にMRから数千円もするお弁当を提供してもらっていたと話していました。彼らはMRからこういった営業を受けているという現実があり、このような営業コストは製薬会社の新規開拓の手段でもあり収益を圧迫する悩みのタネにもなっています。

例えば以前こんなニュースが話題になりました。


このニュースを見てもMRの営業コストは製薬業界全体の課題であることがわかります。

エムスリーを立ち上げた谷村格さんは元々マッキンゼーというコンサルティングファームに在籍していました。ソニー小会社のソネットエンタテイメントに医療サービス立ち上げをアドバイスしていたところ、共同出資で自らが経営をすることになったという経緯があります。

これまで谷村さんはコンサルティングに入った製薬会社の経営改善において、マーケティングのコストカットが大きな課題であると感じていました。そしてそのコストはインターネットを使って削減できるのではないか?という仮説を事業化したのがエムスリーです。

エムスリーの事業価値は、IR資料にあるこのスライドが最もわかりやすいと思います。

エムスリーの事業価値.jpg

コンサルティング・ファーム出身の戦略コンサルタントが業界の課題や不満を事業化するという話は他にもあります。ラクスルという印刷ポータルがありますが、代表取締役社長である松本さんも元々ATカーニーというコストカットに強いコンサルティング会社に在籍していました。

ラクスル画像.jpg

様々な企業のコストカットを行ったところ最もインパクトがあったのが印刷費でした。印刷は仕様が複雑なことが多く、発注した印刷会社がまた別の会社に発注することが重なりやすく、費用が割高になるケースが多いためです。

そのためインターネットで発注者と供給者が直接結びつくことで印刷費用を最適なものに改善できるのではないかという仮説があり事業化しました。ラクスルは様々なベンチャーキャピタルから出資を集め成長していますが、リブセンスのように今後大きく注目を浴びるサービスでしょう。

エムスリーやラクスルの話でわかるのは、儲かるビジネスの基本は不平・不満・不服といった「不」のつく問題を解消することです。これは元リクルートの伝説の編集者であるくらたまなぶさんが20年前に唱えていた考え方ですが、今後も変わらないものす。


■エムスリーの収益の推進力「MR君」

エムスリーの収益ドライバーは「MR君」というネットサービスです。2012年エムスリーの年間売上約180億のうち「MR君」が半分を稼いでいます。

MR君というサイトでは顔写真入りのMR達が提供する情報を見て、医師は気に入った営業マンを登録します。これによってネットを通じて医師とMR君は直接やりとりすることができます。製薬メーカーはMR君に掲載費を支払うことで、医師に対して直接情報発信をすることができるというモデルです。

MR君を理解するうえで抑えておくべきポイントは
①費用対効果
②高単価
③MRの価値の再定義
の3つです。


①費用対効果

MR君の売りはコストパフォーマンスの良さです。プロフェッショナルの鍛え方という本にエムスリーの谷村さんのインタビューが紹介されていますが、そこから抜粋しましょう。製薬メーカーはMRを雇うのに年間で大体2000万円のコストをかけています。

MRは1年間に医師に会う回数は平均2000回であり、1回の訪問に平均10,000円かかっています。MR君では医師に対してメール送信し見てもらうのにが平均285円かかります。

またメーカーからのメッセージを医師が頭の中に残す確率は対面が50%、インターネットは87%という違いがあるそうです。MRを使って医師の1回の認識を得る費用は20,000円かかりますが、MR君であれば380円で済むことができます。このコストパフォーマンスが最大の価値です。

コストパフォーマンス.jpg

②圧倒的高単価

MR君のサービス価格は年間の基本料金が7000万かかります。また年間20万~40万件の医師へメールを送ったとして2000万~4000万の費用が別途かかり最低でも年間1億以上の導入コストが必要ですが、26社の企業が導入をしています。

サービスの価格は顧客が考える価値×サービスによってもたらされる利益によって決まると元リクルートの藤原和博さんは話しています。MR君は前述した通り、非常にコストパフォーマンスが高いサービスです。また同等のビジネスモデルを展開している事業会社がいないため顧客にとっての価値が高いのが特徴です。

IR資料によると1社あたりの現状の平均単価2.4億を今後8~10億規模まで成長させ、導入製薬会社数を現状の倍にできる潜在市場があると書かれています。ただし導入製薬会社の数については5年以上大きな変化がありません。これについては別の課題があると感じています。

③医師とMRの間に横たわる問題を発見し定義をした

日本には25~30万人の医師がいるといわれており、そのうち20万人の医師がMR君に登録をしています。ただし当初は試行錯誤の時期でした。MR君の当初のセールスポイントは、何時間待ってもなかなか会えない医師とネットでコミュニケーションがとれるというものでした。これはMRの営業効率の改善、コスト削減というものを価値と考えていたためです。

当初は営業一人あたりに、MR君のアカウントを30万で販売するというビジネスモデルでした。ただしMR君を製薬会社に説明をしても「メールと何が異なるのか?」というリアクションが多かったということです。

そこから発行するアカウントをMR一人毎ではなく、製薬会社毎の発行に切り替え「本社MR」というコンセプトを打ち立てたところ導入が進むようになりました。

MR君の成長を加速させる大きな要因になったのは、これまでのMR担当者と医師の間に横たわっていた営業コストの非効率性という問題を発見し、ウェブポータルという解決策を新しく提示したことです。言われてみれば確かにそうだが、これまで誰も気が付かなかったような課題を発見し解決するというのも儲かるビジネスの基本です。

ターニングポイント.jpg


■エムスリービジネスモデル研究のまとめ

エムスリーが儲かっているのは
・価値のあるビジネスモデル
・誰もやらないことをやっている
・成果を積み上げる姿勢
が大きいと思います。

三つ目の成果改善を積み上げる企業姿勢もポイントです。エムスリー取締役である横井さんのコメントを紹介しましょう。

「会員化成功のための3つの秘訣」のようなものがあれば面白いのでしょうが、実は打ち手といっても魔法の杖などはなく、医師間の口コミや広告、SEOなど一つ一つ試行錯誤を繰り返すことで、地道に会員を増やしてきています。もちろん、失敗もありました。たとえば、昔、医療従事者向けの専門紙にお金を掛けて広告を出してみましたが、全く会員増につながらない...。 ~中略~ このような「1+1を2にする」ような地道な取り組みが、今とこれからの事業を支えている、ここが「実業」の奥深い点の1つだと思います。

儲かってる会社はこういった地道な取り組みを1つずつ積み上げる姿勢を持っていますが、こういったところも真似したいですね。次回以降はそのエムスリーのウェブマーケティングについて紹介していきます。

またこの場所でお会いしましょう!


参考書籍及び参考サイト
・高橋俊介・内田和成編集 「プロフェッショナルの鍛え方」(GOMA BOOKS、2007年)
・エムスリーホームページhttp://corporate.m3.com/
・エムスリー躍進する業界特化型ポータル事業http://www.waseda.jp/prj-riim/paper/RIIM-CaseNo16_SonetM3.pdf


☆ネットサービスのビジネスモデルをもっと知りたいという方へオススメの情報

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プロフィール

黒須敏行

黒須敏行

早稲田大学在籍時に株式会社アルコにアルバイトとして参加し入社。現在はコンサルタントとしてベネッセやラクスルなどが運営する大規模サイトを中心にウェブマーケティング改善のプランニング及びコンサルティング活動を行なっている。

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