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» 2013年3月 4日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 「レイヤーで考えること」の意義と価値とは

先週、インキュベイトファンドが、Design Fellow Programの第1弾イベントとして開催した「起業家とデザイナーの理想の関係」というフォーラム(セッション)に出張った。

この日は、いくつもイベントが重なり、ほかにも参加したいものはあったが、身体は一つしかない。どれかを選択しなければならない。

facebookをはじめとした様々なソーシャルメディアの恩恵で、多彩なセミナー、フォーラム、カンファレンスなど、有意義なイベント情報収集には困らなくなった。
他方、情報が集まりすぎて同日に開催されるイベントが重複する場合、どれに参加するべきか判断に迷うような事態も生じてしまう。

さて、当日の参加者は60名ほどだろうか。当然ながら、エンジニア、UI、UXなどのデザイナーたちばかりである。

私はマーケティングコミュニケーションが専門である。しかし、デザインには昔から非常に興味があり、自分にはその才能はないが関心だけは高い。

かつては大御所の喜多俊之さんの話を聞きに出かけたり、最近でもコンセプターの坂井直樹さんからご案内をいただき「エクスデザインプログラム」、あるいは奥山清行さんとのブロガーミーティングなどに参加するなど、可能な限り出かけるほどデザインは好きなのだ(特にインダストリアルデザイン)。

ハイ・コミュニケーション社会の今日、マーケティングとデザインこそ、イノベーションの「車の両輪」を担うものだと確信している。

ここでも繰り返すのだが、マーケティングの人間はデザインについて学ぶべきだし、デザインの人間はマーケティングについて知るべきで、相互にもっと理解を深めていくべきだと。

また、昨今のユニバーサルデザインという考え方や視点という追い風もある。

そうした背景もあり、ここのところ、マーケティングと並んでデザイン関連の書籍も刊行点数も急増している。

私の本棚には『デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方』(ティム・ブラウン著:ハヤカワ新書)、『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』(早川書房)、『デザインイノベーション デザイン戦略の次の一手』(ハルトムット・エスリンガー著:翔泳社)など、少ないがそれでも主要な書はある。


この日は、インキュベイトファンドのデザインフェロー藤原由翼氏のほか、Webやマルチデバイス向けアプリケーションのUIデザイン・設計のGoodpatchというUI専門ベンチャー代表の土屋尚史氏が登壇。同氏はGunosy、co-meetingなどの今では話題となっているスタートアップのUIをデザインを手がけた。

土屋氏は、シリコンバレーにいた経験から、米国のスタートアップのサービスはベータ版リリース時から、UIやUXの完成度の高いものを開発しているとのこと。
それは、そうした要素が競争優位性や独自性を発揮して多くのユーザー獲得につながるという、マーケティング戦略的な視点が重要視されているからだということを語った。

「DECOPIC」など写真をデコるスマートフォンアプリなどを次々とリリースしているコミュニティファクトリー代表の松本龍祐氏も登壇。
松本氏は、実際の開発の経験から、サービス開発を進めるうえでのUI、UXにおいてどのようなことに留意すべきか、開発プロセスの具体例、プロジェクトマネジメントの視点から経験談を語られた。

また、藤原氏の恩師である千葉工業大学の山崎和彦教授は、「UIは一人でもできるが、UXは総合的なもの(体験)なので、一人で開発するのは難しい」という言葉が印象的だった。


■「レイヤーで考える」ことの意義と価値

今回、基調講演を行ったインキュベイトファンドのデザインフェロー藤原由翼氏の「レイヤーで考えるという」というとても良いヒントをいただいた。

課題を抱えている様々な人の話を聞いていると、「したいこと」、「できること」、「すべきこと」が混乱して話をしていることが多々ある。
そうした場合、私は仕分けして考えることをアドバイスしている。

優先順位という人もいるが、それは決まっている。なぜならば、すべきことが明確な場合、それは「できるできない」とか「したいしたくない」にかかわらず第一義であることは明白だからだ。
特にコンシューマー向けサービスや製品を提供していて、それはできない、それはしたくないなどとは言えるはずもない。

また、ベンチャー企業の社員からは、社長がビジョン、ビジョンと言うのだが、自分たちの業務にそれがどのように関わるのかがわからないという相談を受けたことがある。
この場合は、ビジョン→ミッション→ゴール→タスク→To Doにまで落とし込むとことで理解できるとアドバイスをする。

そうしたことは、一言でいえばまさに「レイヤーで考える」ということだと、話を聞きながら実に納得した。


日本では、デザインというと、どうしても見た目や形状などのビジュアル要素のことだけを表すという事情がある。
それはDesignの訳語に「意匠」という言葉を当てはめてきたからだろう。あるいは「ザインのためのデザイン」(TEDでのフィリップ・スタルクの言葉)ということもあっただろう。

そういう意味ではイノベーションと同じだ。

Innovationは、1958年の『経済白書』において「技術革新」という訳語を当てたことで、技術にだけに使われるための言葉だという誤解を生んできた。

さらに、Architectという言葉も同様だ。建築家や設計家という意味が一般的で、企画者,創造者という意味で使われることはほとんどない。


ところで、広告代理店などの人と名刺交換すると(めったにないのだが)、コミュニケーションデザイナーという肩書きが記載されていることが最近は多い。ちろん欧米のCommunication Designerから来ているのだが、要するにコミュニケーション(マーケティング)戦略全体の最適化(ROI)を考え設計する人なのである。


私の名刺には「コミュニケーションアーキテクト」と刷ってあるのだが、それには理由や意味がある。

1つめは、マーケティングという言葉が、企業サイドの都合で作られてきた手垢のついたものだから。
2つめは、コミュニケーションデザイナーやプランナー、ディレクターなど、いかにも広告代理店的な言葉だったから。
3つめは、インフォメーションアーキテクトがあるので、コミュニケーションアーキテクトがあってもいいだろうということ。

また、ブログ以外にも様々なソーシャルメディアを活用しているので、ブロガーの代わりにSocialmediactivistと勝手に称しているが、それはもちろんダン・ギルモア『medactivist』(邦題:あなたがメディア!)からインスパイアーされたもの。

閑話休題。


さて、デザインとは、本来はラテン語のdesignare(デジナーレ)の「計画を記号に表す」という意味から来ている。

つまり、課題解決のために思考・概念の組み立てを行うことで、今日的にいえば「可視化」手法ということ。「デザイン思考」という言葉は、本来そうした意味だろう。

そうした折り、実にタイムリーなことに松村太郎さんのインタビュー記事「モバイルライフにおけるユーザー体験とはーー松村太郎氏に聞く(前/後編)」が、ネット上に掲載された。あわせてお読みいただければ参考になると思う。


故スティーブ・ジョブズは、数々の有名な言葉を残しているが、その一つに「デザインとは、単にどのように見えるか、どのように感じるかということではない。どう機能するかだ。」というのがある。

ジョブズ後、その製品開発の理念や独自のデザイン哲学、こだわりを継承しているのは、自ら「デザイナーであり、エンジニア」と称するジェームズ・ダイソンだけだろうと私は思う。
そのダイソン来日のとき(11年10月)、「TOKYO AWARD 夜塾」に出演した時のインタビュー動画(下記)は貴重である。
デザインだけではなく、マーケティングに関わる人が見ても非常に参考になると思う。

デザイン領域だけに限らず、ビジネスの様々な局面で「レイヤーで考える」ということが、今後はさらに必要とされるだろうと確信した夜だった。


【関連リンク】
▼起業家とデザイナーの理想の関係

▼良いサービスデザインのためにスタートアップが覚えておきたい7つの手法

▼「デザイン思考で解決する、サービス設計7つの課題」「起業家とデザイナーの理想の関係」まとめ

▼モバイルライフにおけるユーザー体験とはーー松村太郎氏に聞く(前編)

▼モバイルライフにおけるユーザー体験とはーー松村太郎氏に聞く(後編)

▼【動画】ジェームズ・ダイソン(前編)

▼【動画】ジェームズ・ダイソン(後編)

▼ダイソンの定理 破壊+発想(実験+冒険)=ものづくり from 『WIRED』

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プロフィール

梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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