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» 2013年3月19日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 「マーコム」という言葉が死語となる日ーーコミュニケーションエコシステムへの大転換

「マーコム」という言葉を最近聞かないのは、私だけなのだろうか

もちろん、かつてとは違い、広告代理店や大手企業のマーケティング、広告・宣伝、SP(販売促進)、広報・PRといった部門の方々とお目にかかることもほとんどないので、ひょっとして私だけがそう感じているのかもしれない。

私が広告代理店の傭兵マーケッター時代(80年代後半〜90年代)、打合せなどで盛んに「マーコム」という言葉が飛び交っていた。
マーケティングコミュニケーションのことだが、確かに長いので略したくなる。しかし、ワープロのような一般的に知られているわけではなく、いわゆる業界内だけで通用する言葉だ。

広告・宣伝、SP(販売促進)、広報・PRなど、消費者との関係作りの各種活動をひっくるめて「マーコム」いうのが、業界的な慣例であった。

しかし、業界用語の視点や発想には、元々が供給者(企業)サイドの意図や思惑から出て(絡んで)いるもので、消費者にとって提供者側の意図や要望は一切関係がないし、また決して企業に囲い込まれたいと望んでいるわけではない

今日でもときおりマーケティングというとすぐに「囲い込み」という20世紀的発想を、いまだに金科玉条にしている人に出会って驚くこともある。


■テクノロジーの進展がもたらしたもの

ここ数年、マーケティング(含むリサーチ)業界では下記のような新しい考え方や言葉に触れたり耳にすることが多い。

・「ペルソナマーケティング」...架空の典型(理想的)的な顧客像を想定する
・「アドボカシー・マーケティング」...顧客の立場に立ち、自社の利益優先ではなく信頼関係を構築する
・「フラッシュマーケティング」...割引価格や特典付きクーポンをネットで提供する
・「ジオロケーションマーケティング」...利用者の位置情報を活用する
・「リードナーチャーマーケティング」...顧客の啓蒙や育成、購買式へと高めていく
・「リードジェ ネレーションマーケティング」... CRM(顧客データベース)などを活用し、見込客となりそうな消費者を抽出する
・「エスノグラフィックマーケティン グ」...人類学の手法を応用する
・「ニューロマーケティング」...脳科学を活用する
・「インバウンド(コンテンツ)マーケティング」...有益なコンテンツをネット上で提供し、消費者自身に発見してもらう
・「行動観察」...本人の意識していない潜在意識に潜む事実を引き出す

印象としては、消費者のあらゆる行為(行動)を認知科学的に扱おうとするする傾向が強くみられると同時に、マーケティングというものが、どんどん学際的になっていく感じがする。
そうした消費者行動や情報の究極の活用手法として、テクノロジーの発達が可能にしたビッグデータがある。

その他にも、ゲーミフィケーションの一種として知られているARG(Alternative Reality Game)は、日本語では"代替現実ゲーム"と小難しく訳されている。

さらに日常的なツールや手法でいえば、屋外や交通広告、店頭POPなどで、ネットワーク接続したディスプレー端末を利用するデジタルサイネージ、携帯電話と自動改札機とを連動して駅の改札機の通過情報をキャッチし、その携帯電話に広告を配信する手法など、ここ数年間のマーケティングコミュニケーション分野における手法(接点づくり)は大きく変化している。

こうした背景には、いずれもネットのコモディティ化、ソーシャルメディアやスマートデバイスの進化がもたらしものである。テクノロジーの発達とソーシャルメディアが普及しコミュニケーション環境は大きく変わった。
むしろ、そうしたテクノロジーの進化に"促されて"あるいは"強いられて"変化していると言った方が正しいのかもしれない。

確かに、かつてはネットとリアルな世界は判然としていた時期もあった。いわゆるネット vs バーチャルである。
しかし、21世紀になり10年以上が経過した今日、むしろネット世界の情報ーそこでの出来事や現象ーが、逆に現実社会にあふれるように流れ込んできている。2つの世界は別々ではなく、相互にスピーティーに浸透し合い融解しつつある

もちろん、リアルがネットに"浸食されている"という人もいるかも知れない。

■コミュニケーションエコシステムへの転換

現在もてはやされているソーシャルメディアについていえば、もちろんそのメッセージが届く人が大人数であればそれだけメディア的価値は高い。しかし、それはメディアとしてとらえるより、それだけ多くの人とコミュニケーションするためのチャネルや場だと考えるべきだろう

無料で利用できるメディア(ツール、プラットフォーム)であることから、TwitterやFacebookページを開設し、いきなり製品・サービスなどを情報発信を一方的に行うような売り込み行動がそれでも見受けられる。
知ってもらおう、伝えようとする意識が先行するあまり、どうしても情報発信に傾きがち(懸命)になってしまう。
だが、それはソーシャルメディアを使ってはいるが、結局はレガシーな視点や発想、手法をただソーシャルメディアというプラットフォーム上で実行しているだけのことである。

しかも、そうした情報発信は、企業側の都合や思惑、スケジュールに基づいて設定されている。消費者主権の市場となって久しい今日、特にそれを牽引してきたコミュニケーションツールであるソーシャルメディア上でそうした行動をしていては、いずれ消費者にそっぽを向かれるだろう。

消費者のオケージョンを主体にしたコミュニケーション戦略を組み立てる視点に立たないかぎり、消費者の支持も共感も獲得することはできない

今日では旧来型の縦割りマーコム組織ではなく、コミュニケーション戦略全体の枠組みの中で、統合されたり最大の効果を発揮する最適解な組織体制に全社的に切り替えている企業も増えつつあるようだ。
また、広告代理店でもコミュニケーションという言葉を冠した役職(コミュニケーションデザイナー等)や部門(コーポレートコミュニケーション等)を設けるなどしている時代である。

そうした中で、従来から長らくマーコムを担当している人は、テクノジーの進化によってもたらされるそうした大きく激しい変化の波に、戸惑いや困惑すらを覚える人も多いと思う。

そういう意味では、現在は過渡期でありそれはまだ確立されてはいないが、「コミュニケーションエコシステム」とも呼ぶべき発想や着想を持たねばならいことを、強く求められているのだということを覚悟するよりほかはない。

ところで、2年ほど前(11年)にインバウンドマーケティング、ゲーミフィケーションのセミナー(カンファレンス)に続けて参加した。そのとき、広告代理店、マーケティング業界の関係者が意外なほど少ないことに驚いた。
当時はそうしたテーマや内容に興味や関心がないのか、またはこうしたイベントについての情報をただ知らなかっただけなのかは不明だった。

そのとき私が懇親会でご一緒だったのは、広告業界でつとに知られているお二人だけだったが、やはり異口同音の感想を語っていた。

最も、あれから2年ほど経過しているので、今日同じテーマで開催されれば、むしろ代理店やマーケティング関係者ばかりかもしれないと思うのだが。


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プロフィール

梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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