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» 2013年11月 5日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 映画『ロスト・インタビュー スティーブ・ジョブズ 1995』を見て改めて感じること

「数年に一度、全てを変えてしまう新製品が現れる。それを一度でも成し遂げることができれば幸運だが、アップルは幾度かの機会に恵まれた」

上記は、2007年、ジョブズが最初のiPhoneを発表したプレゼンテーションの中で語った言葉だ。彼の発言の中で、私が今でも最も好きなジョブズの言葉である。

それこそ、まさにApple社の成し遂げて来たことであり、ジョブズの人生そのものだからだ。


ちょうど一ヶ月前の10月6日、故スティーブ・ジョブの命日であった。
この日、渋谷ユーロスペースで『スティーブ・ジョブズ 1995 ~失われたインタビュー~』特別上映イベントが映画館貸切りで催され、ありがたくも千葉英寿さんからブロガーとしてご招待に与った(こういう時にブロガーのメリットを感じる)。

この映画は、ジョブズがAppleを追われて10年、Apple社への復帰直前の約1年前の時期、約1時間のTVのロングインタビューにこたえた時のドキュメンタリー映像である。
長らく紛失していたと思われていた映像が見つかり、今回の公開となった。

イベント当日、上映後には千葉さんがモデレーターになり、ITジャーナリストでAppleに詳しい林信行さん、MacFan編集長の小林正明さんを迎えての熱いトークセッションとなった。

ジョブズへのインタビュー映像といえば、私はこれまでNHKスペシャル『NHKスペシャル 世界を変えた男 スティーブ・ジョブズ』、クローズアップ現代『世界を変えた男 スティーブ・ジョブズの素顔』くらいした見たことがなかった。

また、上記の映画を見逃した人は心配ご無用。
このインタビュー映像をそのまま書籍化『ロスト・インタビュー スティーブ・ジョブズ 1995』(講談社刊)されて書店に並んでいる。
むしろ、字幕よりこちらの方が良いかもしれない。もちろん、彼の話す表情やニュアンスなどは、映像も見ていただく方が良いのであるが。

上記の書籍は私も上映会後に知り、早速購入した。その中でいくつか自分にとって気がついたあるいは発見したことについて記してみたい。


■PARC訪問で得た3つのこと

ジョブズが1979年にゼロックスのパルアルト研究所(通称PARC)を訪れたのは有名な話である。当時はマイクロソフトのビル・ゲイツなども訪れていた。

ジョブズは、最初に訪れた時に3つのものに目を奪われた。
1つは、オブジェクト指向プログラミング、2つめはネットワークコンピュータ・システム、3つめがグラフィカル・ユーザーインターフェース(GUI)だった。
最初の見学で、既に今日のコンピュータ、インターネット業界の行く末が見えていたのだ。

特に3つめを見た瞬間、ジョブズはコンピュータの未来の姿を見たのだ。それこそがビジョナリーたる所以だろう。
同じ物(現象)を見ても、なにかに気が付く人と何も感じないし気がつかない人はいる。その差は想像以上に大きい。

また、この当時(95年)、既にインターネットが革新的であり、これから世界は、インターネットが中心の社会になるとも発言している。

その後、2003年にインターネットから音楽をダウンロード販売するiTunes Music Storeの考えは、このインタビュー時点で既に構想されているようにも感じる。

ジョブズのインタビュー中、マイクロソフトに言及するシーンがある。
この時点で、ジョブズはデスクトップOSの争いでは既に勝負はついており、先のインターネット社会の到来とともに、OS争いは無意味になるだろうことがわかっていたのだろう

そうでなければ、97年にApple社復帰後に長年OSで争っていたマイクロソフトからの出資を、いくらApple社を窮地から救うためとはいえ、そう簡単に決断はできなかっただろうと感じる。


■Defferentiationという言葉

そのマイクロソフトについて語る中で、同社との差別化を図れなくなっていることに言及しているのだが、そのときに使われている言葉が"Defferentiation"なのだが、日本語字幕ではやはり「差別化」と訳されている。

マーケティングのポジショニング戦略で有名なジャック・トラウトの"Defferentiation"(原題)は最初に邦訳で刊行された時、『ユニーク・ポジショニング』(ダイヤモンド社)というタイトルで発売された。
この古典的名著が、復刊した時のタイトルは『独自性の発見』(海と月社刊)だった。私自身は、こちらの方がより本質に近いと思っている。

Apple社の本来のレゾン・デートルからいえば、これこそまさに「独自性」と訳されるべきだと思う(書籍の中でも同箇所は「差別化」と訳されている)。

1995年、Windows95は発売され、マイクロソフトもGUIを採用した時点で、GUIだけに関していえば唯一無二の存在でなくなり、既にApple社の競争優位性はなくなっていたのだ。

私が大好きなニーチェの「独創性」についての箴言を紹介する。


「独創的ーー何か新しいことを最初に見ることではなく、古い、古くから知られた、誰にでも見られ、見過ごされているものを新しいもののように見ることが、本当に独創的な頭脳のしるしである」(『人間的な、あまりに人間的な』より)


上記の言葉こそ、スティーブ・ジョブズが実践してことではないかと感じている。

なお、既に東京では上映は終了しているが、下記では現在上映中だろうと思うので、興味のある方は是非ご覧になることをおすすめする。


・大阪:梅田ガーデンシネマ 10/26(土)~
・京都:京都シネマ 10/26(土)~
・兵庫:元町映画館 11/9(土)~

(関連リンク)
(1)映画『スティーブ・ジョブズ 1995 ~失われたインタビュー~』(予告編動画)
http://www.stevejobs1995.com/trailer/

(2)『ロスト・インタビュー スティーブ・ジョブズ 1995』(講談社刊)
http://amzn.to/19wDap8

<おすすめブログ記事>
▼【追悼投稿】スティーブ・ジョブズに寄せて
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▼Appleのモノ作りの独創性、革新性の秘密についてーーフィル・シラーが語ったこと
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▼『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(1)
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▼『独自性の発見』復刊によせてーーマーケティングにおける独自性と差別化(2)
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梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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