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» 2013年11月24日 更新

ハイ・コミュニケーション私論 ベンチャー企業のマーケティング担当者の心得に寄せて

私は、20世紀中は広告代理店の傭兵マーケッター、21世紀になってからはずっとベンチャー企業のマーケティングの責任者を務めてきた。

今回、Skyland Venturesの木下さんのブログ「ベンチャーのマーケティングの仕事とは何か」に触れる機会があり、そこで私が経験したことや考えていることについで述べて、備忘録としての意味もこめて書き残しておくことにした。


■マーケティングに限らず、なんでもこなす

一口にベンチャー企業といっても、それなりの規模とスタートアップとではマーケティング担当者の仕事内容はもちろん異なる。

私が経験して知っているのはスタートアップや数十人規模の企業についてである。

大企業の中にはいまだに広告・宣伝、広報・PR、販売促進(プロモーション)など、お役所並みの縦割り組織で各々の割り当てられた役割についてだけの業務を"こなしている"ところは、依然として存在している事実には少なからず驚く。

さて、これは特にマーケティング業務に限らず、どの職種においてもスタートアップやベンチャー企業には当てはまることではあるが、一人でいくつもの業務をこなす必要がある。

私が20代の時、中小企業でサーラリーマンをしていたときは営業職だった。営業は仕事とってきて資料を作成し、それを業務推進部に渡せばその後の管理はその部門の仕事だった。
また、請求についても請求分を経理に知らせるだけで、請求書作成から入金確認まですべて経理部門の担当だった。

しかし、これがベンチャーであれば、たとえ営業職といえども、上記のような業務のすべてをこなさなければならい。

資金的な余裕がないために、広告・宣伝にかけられる予算などはあるはずもない。当然、広報・PR戦略でいかざるを得ない

サービス発表の時こそが、マーケティングコミュニケーション最大のチャンスだ
私が最初にいた会社では、私はプレスリリースの書き方を覚えた。もちろん、専門会社のプロのライターに任せる方法もあるがとにかく予算がない。

プレスリリースを書くのは初めてであったが、それでも他社や似たようなサービス企業のプレスリリースを参考に試行錯誤して書いていたが、それがむしろ大いに勉強になった。
また、書いたプレスリリースを自分で各種メディア(ITmedia、Impress、CNET、Japan Interneto com、RBB Todayなど)に送っていた。

当時、リリース文をそのまま全文掲載してもらえるのは「日経プレスリリース」だけだった。
もちろん同メディアに掲載してもらえれば多くの人に閲覧されるが、掲載してもらえるのはほとんどが大企業、それなりの規模や知名度のあるベンチャーだけである。

そうした中で、毎回ほとんど掲載していただけた会社があった。それがVenture Nowである。
同社は、日本全国の無名のスタートアップの情報を掲載してくれる貴重なメディアである。
特に、コンシューマーよりは業界関係者(VC、大企業の新規事業部門など)は、このサイトのチェックをしているので注目されることは大きなメリットだ。

また、同メディアに掲載されると、必ずVCから必ず電話がかかってくるので、EXITとして上場を目指している人たちにはありがたいだろう。

そのほか、私は事業戦略立案(企画書作成)、サービスのコンセプトやネーミング(元々アイデアは私が持っていた)、他の企業との連携・提携(営業)、VCとの折衝など、マーケティング業務に関わる仕事以外もなんでもこなしていた


■ソーシャルメディア時代(Web 2.0以降のマーケティング)

さて、最初のベンチャーにいたころ、ちょうど米国でWeb 2.0という言葉が注目されだした。

それ以降では、ずいぶんと事情が異なる。

私が3番目に在籍していた企業の時、CGM/UGMという言葉一般的になりつつあった。今日でいうソーシャルメディアのことであるが当時はそう呼ばれていた、
この場合の"一般的"なというのは、もちろん業界内での話である。

ここで感じたことは、マーケティングも今日で言う「リーン」でなければダメだし、試行錯誤の連続である。かつては、プランが採用されれば、ほかは大手代理店がすべて進めてくれていた時とは大違いである。
やってみてダメなら、すぐに別の方法や手段を試してみる。それでもダメならさらに別のプランを考えるなど、次々に迅速に繰り出して実行してみることだ

市場の動向や競合他社の様子を見ていると、一刻も早くサービスをリリースすことが必要である。

しかし、技術者からバグが見つかったので発表を伸ばしてくれと何度も言われた。

かつてのようなパッケージ製品(店頭販売など)での時代、マイクロソフトたアップルのような世界的な企業で、開発や検証に膨大な費用や時間をかけている製品やサービスですら、結局あとでバグや不具合が見つかるのであるから、スタートアップ企業がそれと同じことをしていたらいつまでたってもリリースはできない。

テクノロジーの進歩、競合他社の動き、消費者のライフスタイルなどを見ながら最適なタイミングでリリースしなければならない。機能を盛り込みすぎ、その都度新しいバグが見つかってリリースが延び延びになるようなことがあれば、ユーザーをライバルに持って行かれてしまう可能性もある。
また、これはいくつものスタートアップに接している中で気づくのだが、サービスにあれもこれもと多機能で便利さを強調する人が多い。

しかし、説明を受ける側からすれば、何がほかとは異なる独自性(差別化ではない)なのか、わからなくなってしまう。

私はスタートアップには「これさえ伝われば、理解してもらえれば後のことはどうでもいい」という、その企業だからこその独自性にフォーカスして説明するようにアドバイスしている。
サービス提供者(開発者)は、どうしてもいろいろなことができる便利なものとしてわかって欲しいという熱い思いを伝えたいと思い込んでいる。また、毎日接しているし簡単なことでわかっていて当たり前と思い込みがちである、

しかし、それでは実は他者には伝わらないのだということが、当事者にはわなかなかわからない。

第三者の視点や目が重要なのである。

それに今日では、各種ソーシャルメディア(ブログ、ツイッター、フェイスブックなど)があるので、そうしたメディアで開発プロセスなどの物語を情報発信することで、正式ローンチ時までには注目度を高めることができるのも、今日のありがたい恩恵であり利用しない方はない
この件については、EvernoteのCEOフィル・リービンが来日した時、話を伺ったのであるが、彼もソーシャルメディアの恩恵については同じことをことを語っていた。

また、メンターをしていて思うのであるが、リリース依頼されてると、発表と同時にキャンペーンも一緒に書いてくださいと言われることがある。

これは、ネットのリリース配信会社に依頼する関係上、1回の予算で出来るだけ情報を盛り込みたいという思いもあるのだろうが、受け取った側からすれば何を記事にすればよいのか迷うだけである。
ここでも受け取る相手のことを考慮しなければならない。

最後に、私が経験した21世紀のマーケティング業界におけるこの数十年の激変は、その前の牧歌的な時代(20世紀)とは比較にならないほどである

それは経営、テクノロジー、ライフスタイルなど、社会(組織や制度)のあらゆる現象についていえることである。

ただし、いくらテクノロジーが発達しても、マーケティングやコミュニケーションの孕んでいる"本質"は不変あると私個人は考えている。

下記の(おすすめ記事)にある企画人における「心得之五ヶ条」」は、少し古い記事であるが「マーケッター心得之五ヶ条」と読んでもよいだろう。

ご興味のある方は、あわせてご笑覧願えれば幸いである。


(関連リンク)
▼ベンチャーのマーケティングの仕事とは何か
http://skyland.blog.jp/archives/1183420.html

▼社員が語る"Googleで働くデメリット"etc.【連載:シリコンバレーの気になる話題まとめ】
http://engineer.typemag.jp/article/btrax07

▼数字で見るシリコンバレーのマフィア達、Googleは15年間で2123人の人材、1167社の企業を生み出した
http://svjapan.blogspot.jp/2013/11/google1521231167.html


(おすすめ記事)
・第二弾「BRIDGE 2010 April」は、いま最もホットなテーマ『メディアとマーケティングの革新』
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1148407.html

・Evernote Japan Meetupに参加してーーPhil Libinが語ったネットビジネス5つの変化
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/1440318.html

・企画人における「心得之五ヶ条」
http://blog.livedoor.jp/macumeld/archives/796844.html

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プロフィール

梅下武彦

梅下武彦

コミュニケーションアーキテクト兼ブロガー。20世紀は広告代理店の“傭兵マーケッター”、21世紀はベンチャー企業のマーケティング責任者を歴任。現在、マーケティングコミュニケーション領域の戦略立案や設計、アドバイザー・メンターとして活動している。また、様々なソーシャルメディアで活動するSocialmediactivisとして、現在をDigital Ambient Society、Communication Metamorphosesと定義し、多様に激変する社会現象・事象、時代情況を独自のマーケティング視点で語るコラムを執筆中。 ソーシャルテクノロジー社会におけるMarketing DisruptionとCommunication Ecosystemの関係を探求している。

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